神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

何者から送られてきたのか、この挑戦的な手紙。

封筒には、送り主の名前が書かれていた。

「アトラス様へ――――あなたを慕う人魚姫より」と。

人魚姫…人魚?

これって、悪戯でなかったら、もしかして…。

羽久さんが言っていた…童話シリーズの人魚姫…?

…じゃあ、これはもしかして。

人魚姫さんからアトラスさんに送る、ラブレター、

「…!」

私は身体に電流が走ったかのように、その場に立ち尽くした。

どうしよう、まさかこんなものがアトラスさんに送られてくるなんて。

この手紙、どう…。

と、考えたそのとき。

ガチャッ、と執務室の扉が開いた。

「ふぅ、疲れ…。…ん?シュニィじゃないか!」

このときようやく、部屋主が戻ってきた。

あ、アトラスさん…。あなたなんてタイミングで。

私は反射的に、サッ、と手紙を後ろ手に隠した。

そしてそのまま、手紙をこっそりスカートのポケットに忍ばせた。

「あ、アトラスさん…お帰りなさい…」

「あぁ、ただいま。シュニィ、待っててくれたのか?」

「え、えぇ…」

「そうか!帰ってきて一番にシュニィの顔を見ると、一瞬で疲れが吹き飛ぶな!」

…そ…それは良かったですね。

「…ところで、シュニィ」

「は、はい…?」

「今、何か隠さなかったか?」

ぎくっ。

あ、アトラスさん。見ていたのですね。

「な、何も隠しては…」

私は言い訳を探して、視線をぐるぐると彷徨わせた。

我ながら、冷静さを欠いている自覚がある。

あんな挑戦的なラブレターを見たら、誰だって狼狽えますよ。

「な、何でもありません。大丈夫です」

「…?シュニィ?」

「そ、そ、それより。遅かったですね。もう少し早く帰ってくるものだと思っていました」

私は、何とか強引に話を変えた。

「あぁ、帰り道で一部、交通規制がかかっている場所があってな」

そうだったんですか。

道が混んでいて、それで帰りが遅れたんですね。

成程、そんなことだろうと思いました。

「そ、そうでしたか…。無事に戻ってきてくれて、良かったです」

「勿論だ。シュニィのいるところが、俺の帰るべき場所だからな。どれだけ時間がかかっても、俺は必ずシュニィのところに帰ってくるぞ!」

…それは有り難いですね。

「…それで?シュニィ、どうしたんだ?」

「え?」

「俺に、何か用事があって待ってたんじゃないか?」

…それは…。

…そう、なんですけど。

まさか、あなたに言い寄る女性がいるのではないかと心配で…とも、言えず。