「何で幽霊が出ると、お前が暇になるんだ?」

「稽古場に出る、って噂が流れてるんでしょう?」

あぁ。第二稽古場だっけ?

さっき配られた号外にも、インタビュー記事が載ってた。

「あれのせいで、最近、放課後に稽古場に来る生徒が激減してるんですよ」

何だと?

「実習試験が近いっていうのに、皆幽霊を怖がって、稽古場に来ないんです。お陰で僕はこの通り、暇を持て余してますよ」

と、ナジュはつまらなさそうに言った。

ナジュは放課後になると、よく稽古場に行って、自主練をする生徒の指導に当たっている。

そうやって生徒からの好感度を上げることで、シルナの座を脅かそうとしているのだ。

しかし。

稽古場に幽霊が出るという噂のせいで、稽古場に来る生徒が減っている、と。

実習試験が近いこの時期は、自主練習に励む生徒が、稽古場に入り切らないくらいやって来るのが常だというのに。

ナジュが暇を持て余すほど、稽古場は閑古鳥が鳴いているというのか。

それは…重症だな。

「学生寮だけは、未だに幽霊の目撃情報がないらしいので。生徒にとっては学生寮だけが『安全地帯』なんでしょうね」

それで、放課後になったら校舎に残らず、さっさと学生寮に帰ってしまう…と。

そんな…。

「試験が近いというのに、幽霊怖さに、練習をサボっていると…?」

イレースの眼光が、ギラギラと光っていた。

怖っ。

「そうなりますね。今回の試験は期待出来そうにないです」

「…」

邪悪なオーラを放つイレースは、目を釣り上げて、鋭い眼光をギラギラさせていた。

下らない噂を真に受けて、幽霊だ何だと騒いでいるだけでも、イレースにとっては腹立たしいのだろう。

その上幽霊が怖いからと、試験の為の稽古もせずに、さっさと学生寮に帰ってしまう生徒が多数いると聞き。

鬼教官イレースの、堪忍袋の緒が切れたらしい。

「…良いでしょう。こうなったら、生徒の目を覚まさせてあげましょう」

目、目を覚まさせる?

「って、どうやるんだ…?」

「本当に幽霊がいるのかどうか、確かめるんですよ」

えぇ?

「どうせいないに決まっていますが…。仮にいたとしても、丁度良いです。校舎内を彷徨く輩は成敗してくれます」

幽霊が相手だろうと、不法侵入者に容赦はしない主義。

「我々教員がこの目で確かめて、幽霊などいないのだと生徒に証明してみせましょう」

…成程。

それは…名案だな。

…気は進まないけど。