…すると。

「大丈夫だよ、それだけは」

ベリクリーデの別人格は、きっぱりとそう答えた。

「私はこの子の味方。今も、これからも。自分自身を敵に回したりしない」

「…」

「それだけは信じて。…って言っても、君は疑り深いから、信じてはもらえないか」

「…いや」

信じるよ。…一応な。

目の前の人間が、嘘をついているのか、それとも真実を語っているのか…。

真偽を判別出来ないほど、俺の目は節穴ではない。

「お前、ベリクリーデと同じものを見てるんだよな。記憶も共有してるのか」

「うん」

「じゃあ、これからも…他の奴の前では、あくまでベリクリーデのフリをするつもりか?」

「そのつもりだよ。…君が黙っていてくれるなら、だけど」

…そうか。

皆を騙すのは、本意ではないが…。

…ベリクリーデの為にも、今は隠していくべきなのかもな。

それに、俺も魔剣のことを黙っていてもらってるしな。

秘密の共有者としては、悪くない。

「分かった。しばらくは、様子を見させてもらう」

「…黙っててくれるの?」

「あぁ。誰にも言わないよ」

お前の、その完璧な演技なら…俺以外の誰かにバレることはないだろう。

…あぁ、でも…あの読心魔法使いにはバレるか。

あいつの前にさえ行かなければ、他の人間は騙せるだろう。

「…ありがとう、ジュリス。助かるよ」

ベリクリーデの別人格は、ホッとしたように言った。

それはどうも。

…しっかし、流暢に喋るベリクリーデって、なんか慣れないな。

見た目はベリクリーデだが、中身は別ものだから、本来のベリクリーデと違っているのは当然なのだが…。

「…一つ、覚えていて欲しいことがある」

「あ?」

覚えていて欲しいこと?

「大したことじゃないよ。…でも…私にとっては、そこそこ重要、かな」

「何だよ?」

「私の名前だよ」

…名前…。

…そうか。人格が違えば、名前も違うか。

二十音と羽久も、名前で区別してるしな。

いつまでも、「こいつ」とか「お前」呼ばわりじゃな…。

名前があるなら、聞いておこうか。

…呼んでやらんこともない。

ベリクリーデのフリを続けるなら、他の人間には「ベリクリーデ」と呼ばれるのだろうし。

真実を知る俺だけは、この人格の、本当の名前を覚えておこう。