神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

「…顔色一つ変えないんだね」

「予想通りだったからな」

そんなことだろうと思っていたから、驚きはしない。

…ただ、予想が外れて欲しかったってのは、事実だ。

つまりベリクリーデは…羽久・グラスフィアと同じく…。

「私が生まれた理由…分かるでしょ?」

「まぁ、大体な」

実は、ベリクリーデが多重人格者だったって?

そういう訳じゃない。

ベリクリーデの中にいた人格は、元々は一人だけだった。

ご存知の、あのいつものベリクリーデだ。

この、新しい人格は…後天的に生まれたものだ。

「君も知っての通りだよ。ベリクリーデ…この子は聖なる神に選ばれた、神の器」

「…」

「神の器は、その身に神の力を宿すが故に、人智を超えた強大な力を持つ…。けど、本来神の力は、人の身には余るもの。だから…」

「その分、人格が不安定になる。だろ?」

「…うん、そう」

つまりお前は…羽久・グラスフィアと同じ理由で、この世に生まれた存在って訳だ。

羽久…あいつは、元々あの身体の本来の持ち主ではない。

「前の」羽久…二十音(はつね)・グラスフィアが、あの身体のオリジナルだった。

しかし二十音・グラスフィアは、邪神をその身に宿すが故に、精神的に非常に不安定だ。

強大な力を持ってはいるが、制御が効かない。

シルナ・エインリーが手綱を引いているから、まだ大人しいものの…。

あれでシルナがいなかったら、今頃世界は3、4回くらい滅びてるんじゃないか。

ベリクリーデも、二十音と同じようになりつつあるのだろう。

元々ベリクリーデも、見た目に反して、中身は非常に幼い。

それはベリクリーデの性格…もあるのかもしれないが。

神の器として覚醒しつつあるベリクリーデが、自らの精神面の未熟さを補う為。

ある種の防衛機制として、無意識に新たな人格を生み出したのだと考えられる。

そうやって生み出された人格が、今俺の目の前にいるこいつだ。

「その不安定な精神面を支える為に…。神の力の暴走を防ぐ為に、私は生まれた。だから私はこの身体の、ベリクリーデの味方だよ」

…成程。

…さっきよりは、もう少し信用してやろう。

「…なら、何で自分が生まれたことを黙ってた?わざわざベリクリーデの物真似までして…」

「余計な詮索をされたくなかったし、心配もかけたくなかったから…。黙っておけるなら、黙っておきたかったんだよ」

そうか。

じゃ、俺が気付かなかったら…誰にもバレないまま、ベリクリーデのフリをしたこいつが、ベリクリーデの代わりを務めていたんだな。

「だけど…君だけは騙せなかったみたいだね」

当たり前だろ。

俺の目は、そこまで節穴じゃないぞ。

他の奴を騙せても、俺だけは騙せない。