神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

ベリクリーデの偽物は、呆気に取られてこちらを見つめた。

そして、口を開いて言うことには。

「…何言ってるの?ジュリス…。私はベリクリーデだよ」

「嘘つくんじゃねぇよ…。お前がベリクリーデじゃないことは、最初から分かってる」

俺がどれだけ、ベリクリーデの傍にいて、奴の面倒を見てきたと思ってるんだ?

いくら同じ顔をしていようとも、中身が偽物であればすぐに分かる。

「ドッペルゲンガーは、もう倒したんだよ?私の偽物なんていないよ」

「嘘つけ。この数日、お前…ちょくちょく『入れ替わって』ただろ」

「ジュリス、何を言って…」

まだとぼけるか?…別に良いけど。

「いくつ証拠を突きつけてやっても良いが…。お前、演技下手くそだな」

「え…?」

「お前、今『ドッペルゲンガー』って言ったぞ」

「…!」

…気づいたか?自分の失言に。

舌っ足らずなベリクリーデは、ドッペルゲンガーのことを「どっぺる」呼ばわりだったからな。

そんな流暢に喋る時点で、お前がベリクリーデじゃないことは明白だ。

正体を見抜かれて焦ったか?

「だが、まぁ…ドッペルゲンガーよりは、演技派だと思うぞ」

「…」

「詰めが甘いのが玉に瑕だがな。…で?お前、何者だ?」 

これでも、まだしらばっくれるようなら。

俺にも、考えってものが…。

「…さすがだね」

「あ?」

「他の人は完璧に騙せるのに…。君だけは無理なんだ」

…ほう。

意外とあっさり認めたな。

自分が、ベリクリーデではないと。

「最初から気づいてた、って言ったね?」

「あぁ」

俺が医務室に担ぎ込まれて、次に目を覚ましたとき。

そのとき俺の傍らにいたのが、こいつだった。

こいつの姿を見てすぐに、ベリクリーデじゃないと気づいたが。

俺の体調が万全じゃないことと、そして…。

「それなのに、何で今日まで黙ってたの?」

そう、それなんだが。

それには理由がある。

「…お前がベリクリーデじゃないのは確かだが…。でも、あのドッペルゲンガーと違って、お前からは悪意の欠片も感じなかったからな」

「…」

「お前が何かしらの悪意を持って、ベリクリーデの振りをしてるんじゃないことは、最初に見たときから分かってた」

だから、俺は何も言わなかった。

しばらくは、泳がせておこうと思ったのだ。

もしお前が悪意を持ってるんだったら、今頃こんなに悠長にはしてないだろ。