神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

ベリクリーデのか細い記憶に頼っだだけの、不確定な情報ではあるが。

しかし、黙っているよりはマシだろう。

「…それについてだが、ベリクリーデが断絶空間に送られる前、妙なものを見たらしい」

俺は、そう口を開いた。

「?妙なものって?」

「一人はベリクリーデのドッペルゲンガー。それから、もう一人…暗闇の中に、子供の人影を見たらしい。…だろ?ベリクリーデ」

ベリクリーデに話を振ると。

「…ほぇ?」

何事ですかみたいな顔で、きょとんとしていた。

お前、ちゃんと話聞いてた?

お前の話してるんだぞ、今。

「断絶空間に送られる前、部屋の中に子供の人影を見たって言ってただろ?」

「人影?うん、見たよ」

よし。

「それと、死体の匂いがしたの。一瞬だけど」

あぁ、それな。

「俺も、ベリクリーデが消えた翌朝、こいつの部屋に入ったら…僅かに腐敗臭が残ってた」

「…腐敗臭…ですか」

「あぁ。今回の件と、何か関係があるのかは分からないが…」

匂いってのは、五感の中でも比較的不確かな情報だからな。

一瞬のことだったし、正直、あの匂いを思い出せと言われても、出来ない。

だが、ベリクリーデが見たという人影。

それは確かな情報だろう。

「ベリクリーデのドッペルゲンガーに、協力者がいたってことか?」

「その協力者が、オリジナルのベリクリーデさんを断絶空間に送るよう、入れ知恵したと…?」

「入れ知恵どころか…。その子がベリクリーデちゃんを断絶空間に送ったんじゃないかな。元々、誰かを断絶空間に送るなんて…ドッペルゲンガーには出来ないはずだよ」

…皆分かってきたな。

そう。ベリクリーデの話が本当なら…今回の件は、予想以上に根が深い。

『オオカミと七匹の子ヤギ』という、一つの魔法道具が引き起こした事件…の、範疇に留まらない。

ドッペルゲンガーベリクリーデに協力してた子供の人影、っていうのは…一体、誰なんだ?

少なくとも、俺達の味方でないことは確かだな。

「俺達に何らかの悪意があるなら…また来るかもしれねぇな」

「うーん。…そうかも…」

「人を断絶空間に送ることを思いつくような奴だからな…。危険極まりないぞ」

だろうな。

今度は何してくるか、分かったもんじゃない。

「学院長先生…。その子供に、何か覚えは…?」

「全くないなぁ…。子供…うちの生徒って訳じゃないだろうし…」

それは有り得ないだろうな。

「とにかく…警戒は強めておきましょう。夜間の警備も増員して…」

「そうだね…。念の為に、学院の見張りも増やしておくよ。私の分身を量産して…」

便利だな、お前。

「分身って、お前…。砂糖撒いたらあっという間に警備を放り出す分身なんか、いくら量産しても意味ないだろ」

「うぐっ…」

…そんな習性があるのか?

…便利かと思ったが、意外とそうでもないのかもな。