神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

ここ数日医務室で休んで、魔力も全快…とは程遠いものの。

身体はだいぶ楽になったし、ベリクリーデに何度も言ったように、もう大丈夫だ。

それでも俺が医務室に閉じ込められているのは、「一週間は休んでください」という、魔導部隊隊長のシュニィ様の命令だ。

さすがに逆らえないから、仕方なく医務室で大人しくしている。

ベリクリーデが毎日やって来るもんだから、退屈はしない。

「…なぁ、ベリクリーデ」

「ん〜?」

「お前、断絶空間で何してたんだ?」

過ぎたことは過ぎたこと。思い出しても仕方ない…の、かもしれないが。

それでもやっぱり、気になるものは気になるからな。

「…だんぜくかん?」

「断絶空間な。時空の狭間の、掃き溜めみたいなもんだよ」

「私、そんなところに閉じ込められてたの?」

無自覚だったのかよ。

まぁ、ベリクリーデはそうだろうな。

「不自由しなかったか?」

「不自由…ではないけど、記憶がなくなってて大変だった」

…そりゃ災難だったな。

恐らく、無理矢理無秩序な断絶空間に飛ばされた影響で、記憶に障害が生じたのだろう。

「そうか…。不安だったろ?」

「毎日同じ夢を見て…昔の夢だけど…。思い出したくても思い出せなくて、ずっともやもやしてた」

そうだろうな。

記憶をなくせば、誰でもそうなる。

「ジュリスのことも思い出せなかったんだよ、私…。馬鹿だね」

「それは仕方ないだろ。断絶空間に送られた反動で…」

「私の馬鹿」

「おい。ティッシュの箱で自分を殴るな」

ぽかっ、と間抜けな音がした。

自分を殴っても仕方ないだろ。

「別に、お前に責任がある訳じゃない」

「でも私、絶対忘れちゃいけないことを忘れてたから」

「だから、それはお前の責任じゃない。背負う必要のない責任を背負うな。辛くなるだけだぞ」

自分に関係のない責任は、他人に押し付けるなり、知らん顔しているくらいで丁度良いのだ。

人生の処世術だな。

「じゃあ、誰の責任?」

「それはお前…。お前のドッペルゲンガーだろ」

「…どっぺる?」

「前に説明しただろ?偽物の、そっくりさんのことだよ。見なかったのか?」

「見たよ。私に似てる人だった」

だろうな。

自分と同じ顔をした偽物を見て、一体どんな気持ちだったことか。

気持ち悪かっただろうな。

他人の俺でさえ気持ち悪いんだから、自分のドッペルゲンガーと鉢合わせた暁には、気持ち悪くて瞬殺してしまいそうだな。