神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

―――――――…私は弾かれたように、その場に立ち上がった。

「…知ってる…」

この魔力の正体を、私は知ってる。

誰かが、私を呼んでいる。

この声の正体を、私は知ってる…!

取り憑かれたように、私は虚空に向かって手を伸ばした。

「…ジュリス…!!」

私は、ようやく思い出したその名前を呼んだ。

…何で、忘れてたんだろう。一番大切なことなのに。

私にとって、一番…。

…一番、愛しい名前なのに。

そうだ。私、何もかも思い出した。

あの日、あの夜、何があったのか。何で私が、こんな世界に送り込まれたのか。

いきなり現れた、私の偽物。私と同じ姿をした…。

そして、もう一人…小さな人影が、私をここに送り込んだのだ。

それ以降ずっと、記憶をなくしていた。

多分、この世界に飛ばされたことで、一時的に記憶をなくしてしまったんだろう。

だけど、私の記憶は消えてしまった訳じゃない。

モヤがかかって、思い出せなかったってだけで。

夢の中で、私はずっと、自分の記憶を見続けてきた。

そうだ。全部思い出した。

今なら分かる。

私を呼んでくれた声。私に手を差し伸べてくれたのが、誰なのか。

ジュリスだ。

…ジュリス、なんだ。

彼が…私を、助けに来てくれたんだ。

いつも…いつだって、そうだね。

ジュリスは、いつも私を助けようとしてくれる。

厄介なお荷物のはずなのに、何度も、何度でも、懲りずに私を守ってくれる。

だったら…私も、そんなジュリスの気持ちに応えないと。

ジュリスは開けようとしてるんだね、その閉じた扉。

分かったよ。

「ジュリス…今、行くから」

私は、渾身の魔力を身体の内に溜め。

ジュリスが抉じ開けようとする扉の隙間に、思いっきり叩きつけた。

内側と外側、同時に巨大な魔力を叩き込まれ、世界が震え上がった。

…パリン、と音がした。

閉ざされた世界の向こうに、私は投げ出された。