神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

眠りにつくと、ちゃんと同じ夢を見た。

灰色のモヤがかかった景色。

だけど確かに、何処かで見覚えがあった。

私は、きっとここに居たんだ。

いつのことなのか分からないけど。思い出せなくても。

この夢の中こそ、私の真実なのだ。

「…ねぇ、何で隠すの?」

灰色のモヤに向かって、私は話しかけた。

モヤに話しかけるなんて、私もなかなかヤバい人だ。

だけど、そうせずにはいられなかった。

「隠さないで。ちゃんと見せてよ…。これは私のもの。私の記憶でしょ?」

自分の記憶なのに、何で誰かに隠されなきゃいけないの。

おかしいよ、そんなの。

「…ねぇ、教えてよ」

知ってるんでしょ。私の記憶。

「あの人は誰?」

私を呼んだ声。

私の名前。

「あの人は私にとって、どういう人なの?」

きっと、凄く大事な人なんだよね。

ここにいる偽りの家族より、ずっと大切な人なんだよね。

「あの人は、私を探そうとしてくれてるの?」

今も諦めずに、私を探してくれてるの?

「…あの人は、何処にいるの?」

何処に行ったら、私はあの人に会えるの?

会いたいよ。…会わせてよ。夢の中で良いから。

私が何者なのか、教えてよ。

胸の奥から湧き上がってくる、この強い衝動は何なの?

抑えきれなくなるんだよ。

空っぽの自分に、耐えられなくなるの。

「ねぇ、教えて…。君は今、何処にいるの…?」

私は灰色のモヤに向かって、手を伸ばした。

この手が届けば…灰色の景色の向こうにある、私の本当の記憶に手が届けば。

私はきっと、大切なことを思い出せる…。

…はず、だったのに。




…ガチャッ、と扉の開く音がして、私は夢の中から現実に引き戻された。

…あぁ、やっぱり駄目だった。

夢の中でさえ…私は真実を見ることが出来ないのだ。

そして目が覚めた今も、ずっと偽りの世界の中…。

あと少しだったのに…。私を起こしたのは、一体誰?

「…ベリーシュ…」

「…シファちゃん」

この世界で私を起こすのは、やっぱりシファちゃんなんだね。

毎回毎回、最悪のタイミングで起こしてくれるよ。