神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

その後のことは、あまり思い出したくない。

豚さんの小屋に連れて行かれるのかと思ったら、そんなことはなく。

臭いカツ丼食べさせられるのかなぁと思ったら、そんなこともなく。

タオルを何枚も渡されて、身体を拭くように言われ。

お茶も出されたけど、私は口をつけなかった。

で、色々と、根掘り葉掘り聞かれた。

何処の学校に通ってるんだとか、何でこんなところにいるのかとか。

名前や住所や、電話番号も聞かれた。

…が、私はそのどれも答えなかった。

答えなかったと言うか…答えられなかった。

知らないから。

学校の名前も、自分の名前も、住所も何もかも。

本当の私のものじゃないから。

ただ、何でここにいるのか、という質問だけは…唯一、答えることが出来た。

「…探してるの」

「は…?何を?」

「私を…助けようとしてくれてる人」

嘘偽りのない、真実なのに。

お巡りさんは怪訝な顔をして、そして大きく溜め息をついた。

…本当のことを言ったのに、何で溜め息をつくんだろう。

私にとっては、凄く大切なことなんだよ。

「とにかく…。ちょっと、その名札見せてくれる?」

「…」

私の制服についていた名札と、学生カバンの中に入っていた、生徒手帳、ってものを取り出して。

お巡りさんは、学校と、私の自宅に連絡したらしい。

あれよあれという間に、学校の先生と、それからママがやって来た。

そして、「もう家出しちゃ駄目だよ」とお巡りさんに叱られ。

家出じゃないのに家出扱いされて、意気消沈した私は、ママと先生に連れられて自宅に帰った。

…あっという間の逃避行だった。

儚い逃避行だった。

結局私は、何も見つけられなかった。

こうしている今も、私を呼んだあの声の主は、私を探してくれているかもしれないのに。