神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

一回目イレースを連れて、学院長室に戻ると。

「偽物が出てきて大変だよね、イレースちゃん。疲れてない?チョコ食べる?」

「そんなことをしている暇があったら、さっさと仕事を終わらせてください。あなたの仕事か遅いことの方が、私にとっては余程大変です」

「ぐはっ」

…二回目イレースの舌鋒が、シルナに突き刺さる。

この、的確にシルナの急所を突く毒舌…。まるで本物のイレースだ。

これはヤバいぞ。

令月とすぐりのとき以上に、判別するのが難しい。

両方、本物のイレースのように見える。

二人のイレースが、一堂に会した。

全く同じ顔をした二人が、お互いの顔をじろっ、と睨んだ。

睨み合うその視線もまた、両者共に全く同じで…。

「どうする、シルナ…。全く見分けがつかん…」

「私の心を抉ってくるから、きっと二回目のイレースちゃんが本物だと思う…」

「いや、でもさっきの肝の太さ…。俺は一回目のイレースが本物だと思うぞ」

俺とシルナでさえ、意見が対立しているのに。

二人のイレースを横に並べて、区別がつくはずがな、

「…ふむ。自分と同じ顔の人間が目の前にいるというのは、気持ちが悪いですね」

二回目イレースが、顔をしかめてそう言うと。

「奇遇ですね。私も同じことを考えていたところです…。…故に」

一回目イレースがそれに同意して、そして。

一回目イレースは、懐から杖を取り出した。

…え?

何で杖?

「お互いが本物であると、根拠のない主張を繰り返すのは時間の無駄です」

え、いや。それは。

「シンプルに決めましょう。勝った方が正義、勝った方が本物。負けた方は偽物。それで良いですね」

何が良いんだ?

え、ちょ、イレース。何を、

「偽物に負ける本物なら、それは偽物です。…実に分かりやすいですね」

一回目イレースの杖が、バチバチと雷をまとっていた。

それを見た二回目イレースは、初めて狼狽え。

「ま…待ってください。それは浅慮ではありませんか?きちんとお互いが本物かどうか確かめて…」

「ボロを出しましたね。そこのパンダと違って…私が浅慮であることなど有り得ません」

一回目イレースの眼光は、地獄の官吏より鋭く光っていた。




「…消えなさい。この偽物」

次の瞬間。

バリバリバリッ!と、学院長室に雷鳴が轟いた。