神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

幸いなことに、一回目イレースは職員室にいた。

「あぁ忙しい、忙しい。何処かのパンダ学院長が怠惰なせいで忙しいですね」

ぶつぶつ文句を言いながら、素早い指捌きで書類を捌いていた。

…まるで本物そっくりだな。

これがドッペルゲンガーなのだとしたら、再現度が半端じゃないぞ。

「イレース、ちょっと良いか」

「?何です。私は今忙しいのですが」

イレースは、ちらりとこちらを見て返事をした。

取り込み中のところ、申し訳ないが。

「忙しいのは分かってるが、ちょっと学院長室に来てくれないか」

「さっき行ったばかりじゃないですか」

そうだよな。

でも、また来たんだよ。お前とそっくりの人物が。

「驚かないで聞いてくれよ?…さっき、お前と全く同じ姿の奴が来て、さっきと全く同じやり取りをしたんだ」

と言っても、顔色一つ変えないイレース。

さすがである。

「多分、お前のドッペルゲンガーが出たんだと思う。もう一人のイレースを学院長室で待たせてる。だから、ちょっと学院長室に来てくれ」

「私のドッペルゲンガーですか…」

「あぁ」

お前がドッペルゲンガーそのものでないなら、だけどな。

すると、イレースはとんでもないことを言い出した。

「…でも、そいつは何か悪さをした訳ではないのでしょう?」

え?

「いや、まぁ…。それはそうだけど…」

ドッペルゲンガーイレースによって、何らかの被害を被った者は、今のところいない。

強いて言うなら、シルナが二度怒られたくらいか。

でも、それはシルナの自業自得なので、ノーカン。

「だったら後にしてください。私は今忙しいんです」

「…」

…自分の、ドッペルゲンガーが出たというのに。

それは後回しで、書類仕事を優先。

…お前…怖くはないのか?ドッペルゲンガーが…。

この肝の太さ、まるで本物のイレースだ。

こっちの、一回目イレースがオリジナルなんじゃね?

と思ったが、さすがにこれだけで判断は出来ない。

「…何か悪さをする前に、早いところ解決しておこうと思うんだが」

「…ちっ…。仕方ないですね…」

舌打ちをするなよ。

ともかく、イレースはすっくと立ち上がった。

「行けば良いんでしょう。さっさと終わらせましょう」

「あ、あぁ…」

…この時点で何だか嫌な予感がするの、俺だけか?