「お前ら…。そんな一瞬で、偽物を見抜いてたのか…?」

「俺だって、伊達に『八千代』を睨み続けて生きてきた訳じゃないよ」

「僕も。伊達に『八千歳』に背中を追われ続けながら生きてきた訳じゃないから」

…説得力が違うな。

さすがと言わざるを得ない。

お互いにお互いの姿を見つめ続けてきたが故に、お互いを見間違えることがない。

ここまで見事に見破られてしまうとは、ドッペルゲンガーも気の毒だな。

この二人に化けるのは、失敗だったようだ。

「羽久せんせーもさぁ、俺達が本物だって気づいてよねー」

「う…」

それは…まぁ…。

…申し訳ないと思ってるよ。

「ま、いーや。無事に俺達のどっぺるげんがーも追い払ったから…これで四人。半分を越えたね」

そういえば、そうだったな。

ドッペルゲンガーは、計七人。

俺達が退治したのは、これで四人だ。

残るは三人…。過半数を越えると、あと一息って感じがするな。

「お祝いに、イチジクのパイどうぞ」

スッ、とイチジクのパイを差し出す令月。

…そういえば。

「さっきのドッペルゲンガー、イチジクなんて植えてないって言ってたけど…」

「あぁ。園芸部の畑には、確かに植えてないよ。でも学校の裏手にイチジクの木があって、誰も手入れしてないから、ツキナが世話してるんだよ」

そうだったのか。

「それは…知りもせずに、悪いことしたな…」

「別にいーよ。どっぺるげんがーは退治したし」

「うん。意外と呆気なかったね」

お前達だけだよ。あんなに呆気なく自分達のドッペルゲンガーを退治出来るのは。

「…見習わないとね、私達も…」

シルナが、ポツリとそう言った。

「全くだな…」

「それはそれとして…改めて、今度は落ち着いてイチジクパイを食べよう」

かぼちゃケーキを食べて、その後すぐにイチジクパイかよ。

今更だが、シルナのドッペルゲンガーを見分けるのは、簡単そうだな。

甘いものを目の前に並べて、一番食いつきが良いのが本物だ。多分。