【第五話】
◯久遠学院・二年生の教室(お昼休み)
各々の席に座るほのかとクラスメイト三人
琥珀「ねー、ほのか。お昼終わったら昨日の続き読んで」
ほのか「はいはーい。私としては良い練習になるから大歓迎だけど、続きが気になるようならこの本いくらでも貸し出すよ?」
琥珀に促され、机の中から本を取り出すほのか
同時に琴の式神を顕現させる(朗読中、BGM代わりに琴を弾いてもらうため)
あいさつ代わりに式神にタッチをしてコミュニケーションを取るほのか
玉縁「それは違うのよ。ほのかに読んでもらうから意味があるんじゃない」
珊瑚「分かるー、ほのかの声ってなんか心に染みるんだよなぁ。日に日に上手くなってくから聞きごたえもあるし」
ほのか「そりゃあ、毎日練習してますもの。授業も受けさせてもらってるしね」
ほのかの持つ本にはいくつも付箋が張られており、直に書き込みもされている
授業で講師の先生からもらったアドバイスや息継ぎの目安を示す区切り線の描写
ほのか(神様と言葉を交わす神託巫女を育てる久遠学院)
(神様を楽しませるための芸事、神楽を学ぶ一貫として)
(私、佐倉ほのかは朗読の特別授業を受け始めました)
朗読を始めるほのかとそれをうっとりと聞くクラスメイト三人
ほのか(朗読を始めたきっかけは縁結びの神様からの無茶振りだった訳だけど)
(どうやら私は朗読が得意みたいで)
(せっかくだからちゃんと勉強することにしたんだよね)
ほのか「『そして、彼はついに淡い初恋を自覚したのだった』……区切りもいいし、今日はここまでにしよっか」
玉縁「はぁい……」
琥珀「うーん、今日も最高……」
珊瑚「これぞ、ゆめごごち……」
ほのか「えぇ……」
机にぐったりと身体を預ける三人を見てほのかは苦笑いを浮かべる
ほのかは琴の式神に別れの挨拶をし、顕現を解く
ほのか(褒めてもらえるのは嬉しいけど)
(時々、みんながこんな感じになるのはちょっと心配)
ぐったりした三人を揺さぶるほのか
緩やかな動作で起き上がる三人
ほのか「みんな、起きてってば」
珊瑚「ううん、起きてるよ……それにしても今日は一段と凄かった気がする」
琥珀「分かる」
玉縁「ねぇ、私思ったんだけど」
真面目な顔つきでほのかをみつめる玉縁
ほのか「ん?玉縁、どうしたの?」
玉縁「ほのかの朗読って恋愛が絡む話の時、特にヤバくない?」
珊瑚「ッ、それだ!!」
はっとした顔つきになる三人と驚くほのか
ほのか「ええ、そうかな!?」
目を見開くほのかにニヤニヤした顔で問いかける三人
琥珀「間違いないよ。ねぇ、ほのか何でなの?」
珊瑚「確かにー、何でなんだろうな?」
玉縁「そうねぇ、きっと心当たりがあるんじゃないかしら。そうでしょ、ほのか?」
三人の反応に一瞬唖然とするものの、じわじわと赤くなるほのか
ほのかの脳裏にぼんやりと薔の姿が浮かぶ
珊瑚「例えばだけど、めちゃくちゃ大好きな先輩がいたとして」
玉縁「憧れてたりしちゃって」
琥珀「いつの間にか憧れが、恋心になっちゃったりし────」
ほのか「ちょっと、ちょっと!!やめてよ三人とも!!」
真っ赤になって席から勢いよく立ち上がるほのか
どうにか話題を変えようと必死に考える
ほのか「えっと、ほら!!私たちって神様にお仕えする身でしょ!?そういう話題は止めておいた方がいいんじゃないかな!?ことあるごとに”清く在れ”っていつも言われてるし!!」
あやめ先生「────あー、よく勘違いされるけど神託巫女って恋愛全然OKよ。まぁ、人として貞操観念にはそれなりに気をつけてほしいところではあるけど」
ほのか「わっ!?!?あやめ先生!?」
突然背後に現れたあやめ先生にビクッとするほのか
あやめ先生「私も恋バナしたーい!次、国語だけど特別授業ってことで恋愛談義にしない?あやめお姉さんに君たちの恋愛事情を語るってのはどう?」
珊瑚「先生としてはどうかと思うけど、大歓迎!!」
琥珀「あやめ先生、最高でーす。賛成しまーす」
玉縁「大賛成。じゃあ、まずはほのかから」
ほのか「えっ……!?っていうか、そもそも私たちって恋愛してもいいんですか!?」
そう口にしながら、ほのかは神様に仕える清らかな巫女のイメージを脳内に思い浮かべる
あやめ先生「ほのかが言いたいことは分かるわよ。でもね、意外と神託巫女ってそこらへん緩いのよ」
玉縁「そうよ。家の都合もあって、私とあやめ先生なんかは昔から許嫁がいるし」
珊瑚「私も彼氏いるし。っても、幼馴染だけど」
琥珀「今はいないけど、私もちょっと前まで系列校の男子と付き合ってたし」
みんなの恋愛事情を初めて知って、衝撃を受けるほのか
あやめ先生「神様たちってさぁ、長生きだから人間のことなんてよく分かってるワケ。真っ当な恋愛してる分には微笑ましく見守ってくれる神様が大多数よ。不特定多数と爛れた関係を持ったりしなければ大丈夫。まぁ、たまーに生娘好きな神様もいたりするから」
刺激の強いあやめ先生の話に混乱して目を回すほのか
玉縁「あやめ先生、ほのかがいっぱいいっぱいになってるからその辺りで」
珊瑚「ほのか、こっちの世界に戻ってきて」
珊瑚に揺さぶられるほのか
そんなほのかの様子を見てあやめ先生が一言
あやめ先生「まぁ、ほのかはいずれ久遠の……薔様に手取り足取り教えてもらうことになるんじゃなーい?」
ほのか「!?な、なんで、あやめ先生までそんなこと!?」
あやめ先生「そりゃあ、ほのかの様子見てたら誰でも分かるわよ。アンタ、薔様のこと大好きじゃない」
ズバッとそう言われてしまって、いよいよ大混乱に陥るほのか
ほのか「そ、そうだとしてもですよ!!私と久遠先輩は女の子同士じゃないですか!!それはさすがに神様的にNGだったりしませんか!?!?」
ほのかの言葉に教室が静まり返る。
少し置いて、クラスメイト三人とあやめ先生が「あー」「そっかー」「なるほどね」「マジかぁ」とボソボソ呟き始める。
琥珀「いい機会だから聞いておきたいんだけど、ほのかって薔様についてどこまで知ってるのかしら?」
ほのか「ど、こまで知ってるって……質問の意図が分からないんだけど」
ほのか(久遠先輩について知ってることと言えば)
(あらゆる面で神託巫女としてほぼ完成しつつある実力者で)
(この学院の名前にもなるくらいの名門一族・久遠家出身なこと)
(それと、いつも私に優しく笑いかけてくれること)
薔が「ほのか」と自分の名前を呼びながら、柔らかい笑みを浮かべる姿を頭の中で回想するほのか
再びじわじわと赤くなって机に突っ伏す
あやめ先生「あー、なんかそのリアクション見ただけでなんとなく想像ついたわ……そ・れ・よ・り、私としてはこれまでのほのかの恋愛遍歴の方が気になるなー!初恋は?初カレは?初キスは?それとも現在進行形で全部初めてだったりするのかな~?」
玉縁「まぁ、今のほのかの反応を見るに全部初めてかしら」
珊瑚「まー、そうだろうな」
琥珀「でしょうねぇ」
あやめ先生「えー、つまんなーい。じゃあ、質問を変えようかしら」
ワイワイ好き勝手騒ぐクラスメイト三人とあやめ先生に少しイラっとしたほのか
不機嫌な顔つきになってぼそっと呟く
ほのか「……いましたよ」
クラスメイト三人とあやめ先生の「え」と言う声がハモる
ほのか「彼氏、いたんですってば。中学の頃ですけど」
自分のことを何だと思っているんだと眉を潜めるほのか
クラスメイト三人とあやめ先生が「えええ!!!」と叫ぶ
◯久遠学院・廊下(午後・移動中)
朗読の個人授業へ向かうため、テキストや本を持ちながら廊下を歩くほのか
ほのか「あー……酷い目にあった」
ほのか(この後の朗読の授業の課題テキストは恋愛モノ以外にしてもらおう……うんざりよ)
(すんごい勢いで元カレについて食いつかれたけど、正直別にそんな話すことないっていうか)
(中二の時、その場のノリで付き合って卒業式で自然消滅したような関係だし)
(何回かデートもしたけど……あれが恋だったかと言われると)
元カレの後姿を思い出すものの、腑に落ちない様子のほのか
ふと手に抱えていた本『初恋は凛と咲く花のように』の帯に目が留まる
『眩しくて、そばにいると戸惑うくらいなのに、どうしても近づきたい』という一文が記されている
ほのか(『眩しくて、そばにいると戸惑うくらいなのに、どうしても近づきたい』か……確か、この小説の主人公が初恋に気づいた時の一文だったよね)
(前に久遠先輩が読んでたから気になって私も買って読んじゃったけど)
(もし、初恋が本当にそういうものなのだとしたら)
(きっと、私の初恋は)
ほのかがそんなことを考えていると、廊下の反対側からタイミングよく薔が歩いてきた
遠くから少しずつ近づいてくる薔をぼーっとした気持ちで見つめるほのか
薔がほのかに気がついて、いつもの柔らかい笑みを浮かべながら手を振ってくれる
薔につられて、ほのかも手を振り返す
薔「ほのか、これから授業?」
ほのか「久遠先輩、お疲れ様です。はい、これから朗読の個人授業です」
薔「そっか、頑張ってね」
廊下から差し込む光が薔を照らしている描写
ほのかは目を眇めて薔を見る
薔「そういえば、次の任務もまたほのかと一緒に行くことになるかも。今回は遠方だから泊まりで、日数としては────あれ、ほのか聞いてる?」
午後の日差しを浴びて、キラキラと光る薔に見惚れて話を聞き洩らすほのか
薔への恋心を自覚したことで暖かい笑みが溢れる
薔「ねぇ、私の話聞いてないでしょ。そんなに嬉しそうに笑ってどうしたの?」
突然嬉しそうに笑い始めたほのかにつられて、思わずといった様子で薔も笑い始める
廊下で穏やかに笑い合う二人
◯久遠学院・二年生の教室(お昼休み)
各々の席に座るほのかとクラスメイト三人
琥珀「ねー、ほのか。お昼終わったら昨日の続き読んで」
ほのか「はいはーい。私としては良い練習になるから大歓迎だけど、続きが気になるようならこの本いくらでも貸し出すよ?」
琥珀に促され、机の中から本を取り出すほのか
同時に琴の式神を顕現させる(朗読中、BGM代わりに琴を弾いてもらうため)
あいさつ代わりに式神にタッチをしてコミュニケーションを取るほのか
玉縁「それは違うのよ。ほのかに読んでもらうから意味があるんじゃない」
珊瑚「分かるー、ほのかの声ってなんか心に染みるんだよなぁ。日に日に上手くなってくから聞きごたえもあるし」
ほのか「そりゃあ、毎日練習してますもの。授業も受けさせてもらってるしね」
ほのかの持つ本にはいくつも付箋が張られており、直に書き込みもされている
授業で講師の先生からもらったアドバイスや息継ぎの目安を示す区切り線の描写
ほのか(神様と言葉を交わす神託巫女を育てる久遠学院)
(神様を楽しませるための芸事、神楽を学ぶ一貫として)
(私、佐倉ほのかは朗読の特別授業を受け始めました)
朗読を始めるほのかとそれをうっとりと聞くクラスメイト三人
ほのか(朗読を始めたきっかけは縁結びの神様からの無茶振りだった訳だけど)
(どうやら私は朗読が得意みたいで)
(せっかくだからちゃんと勉強することにしたんだよね)
ほのか「『そして、彼はついに淡い初恋を自覚したのだった』……区切りもいいし、今日はここまでにしよっか」
玉縁「はぁい……」
琥珀「うーん、今日も最高……」
珊瑚「これぞ、ゆめごごち……」
ほのか「えぇ……」
机にぐったりと身体を預ける三人を見てほのかは苦笑いを浮かべる
ほのかは琴の式神に別れの挨拶をし、顕現を解く
ほのか(褒めてもらえるのは嬉しいけど)
(時々、みんながこんな感じになるのはちょっと心配)
ぐったりした三人を揺さぶるほのか
緩やかな動作で起き上がる三人
ほのか「みんな、起きてってば」
珊瑚「ううん、起きてるよ……それにしても今日は一段と凄かった気がする」
琥珀「分かる」
玉縁「ねぇ、私思ったんだけど」
真面目な顔つきでほのかをみつめる玉縁
ほのか「ん?玉縁、どうしたの?」
玉縁「ほのかの朗読って恋愛が絡む話の時、特にヤバくない?」
珊瑚「ッ、それだ!!」
はっとした顔つきになる三人と驚くほのか
ほのか「ええ、そうかな!?」
目を見開くほのかにニヤニヤした顔で問いかける三人
琥珀「間違いないよ。ねぇ、ほのか何でなの?」
珊瑚「確かにー、何でなんだろうな?」
玉縁「そうねぇ、きっと心当たりがあるんじゃないかしら。そうでしょ、ほのか?」
三人の反応に一瞬唖然とするものの、じわじわと赤くなるほのか
ほのかの脳裏にぼんやりと薔の姿が浮かぶ
珊瑚「例えばだけど、めちゃくちゃ大好きな先輩がいたとして」
玉縁「憧れてたりしちゃって」
琥珀「いつの間にか憧れが、恋心になっちゃったりし────」
ほのか「ちょっと、ちょっと!!やめてよ三人とも!!」
真っ赤になって席から勢いよく立ち上がるほのか
どうにか話題を変えようと必死に考える
ほのか「えっと、ほら!!私たちって神様にお仕えする身でしょ!?そういう話題は止めておいた方がいいんじゃないかな!?ことあるごとに”清く在れ”っていつも言われてるし!!」
あやめ先生「────あー、よく勘違いされるけど神託巫女って恋愛全然OKよ。まぁ、人として貞操観念にはそれなりに気をつけてほしいところではあるけど」
ほのか「わっ!?!?あやめ先生!?」
突然背後に現れたあやめ先生にビクッとするほのか
あやめ先生「私も恋バナしたーい!次、国語だけど特別授業ってことで恋愛談義にしない?あやめお姉さんに君たちの恋愛事情を語るってのはどう?」
珊瑚「先生としてはどうかと思うけど、大歓迎!!」
琥珀「あやめ先生、最高でーす。賛成しまーす」
玉縁「大賛成。じゃあ、まずはほのかから」
ほのか「えっ……!?っていうか、そもそも私たちって恋愛してもいいんですか!?」
そう口にしながら、ほのかは神様に仕える清らかな巫女のイメージを脳内に思い浮かべる
あやめ先生「ほのかが言いたいことは分かるわよ。でもね、意外と神託巫女ってそこらへん緩いのよ」
玉縁「そうよ。家の都合もあって、私とあやめ先生なんかは昔から許嫁がいるし」
珊瑚「私も彼氏いるし。っても、幼馴染だけど」
琥珀「今はいないけど、私もちょっと前まで系列校の男子と付き合ってたし」
みんなの恋愛事情を初めて知って、衝撃を受けるほのか
あやめ先生「神様たちってさぁ、長生きだから人間のことなんてよく分かってるワケ。真っ当な恋愛してる分には微笑ましく見守ってくれる神様が大多数よ。不特定多数と爛れた関係を持ったりしなければ大丈夫。まぁ、たまーに生娘好きな神様もいたりするから」
刺激の強いあやめ先生の話に混乱して目を回すほのか
玉縁「あやめ先生、ほのかがいっぱいいっぱいになってるからその辺りで」
珊瑚「ほのか、こっちの世界に戻ってきて」
珊瑚に揺さぶられるほのか
そんなほのかの様子を見てあやめ先生が一言
あやめ先生「まぁ、ほのかはいずれ久遠の……薔様に手取り足取り教えてもらうことになるんじゃなーい?」
ほのか「!?な、なんで、あやめ先生までそんなこと!?」
あやめ先生「そりゃあ、ほのかの様子見てたら誰でも分かるわよ。アンタ、薔様のこと大好きじゃない」
ズバッとそう言われてしまって、いよいよ大混乱に陥るほのか
ほのか「そ、そうだとしてもですよ!!私と久遠先輩は女の子同士じゃないですか!!それはさすがに神様的にNGだったりしませんか!?!?」
ほのかの言葉に教室が静まり返る。
少し置いて、クラスメイト三人とあやめ先生が「あー」「そっかー」「なるほどね」「マジかぁ」とボソボソ呟き始める。
琥珀「いい機会だから聞いておきたいんだけど、ほのかって薔様についてどこまで知ってるのかしら?」
ほのか「ど、こまで知ってるって……質問の意図が分からないんだけど」
ほのか(久遠先輩について知ってることと言えば)
(あらゆる面で神託巫女としてほぼ完成しつつある実力者で)
(この学院の名前にもなるくらいの名門一族・久遠家出身なこと)
(それと、いつも私に優しく笑いかけてくれること)
薔が「ほのか」と自分の名前を呼びながら、柔らかい笑みを浮かべる姿を頭の中で回想するほのか
再びじわじわと赤くなって机に突っ伏す
あやめ先生「あー、なんかそのリアクション見ただけでなんとなく想像ついたわ……そ・れ・よ・り、私としてはこれまでのほのかの恋愛遍歴の方が気になるなー!初恋は?初カレは?初キスは?それとも現在進行形で全部初めてだったりするのかな~?」
玉縁「まぁ、今のほのかの反応を見るに全部初めてかしら」
珊瑚「まー、そうだろうな」
琥珀「でしょうねぇ」
あやめ先生「えー、つまんなーい。じゃあ、質問を変えようかしら」
ワイワイ好き勝手騒ぐクラスメイト三人とあやめ先生に少しイラっとしたほのか
不機嫌な顔つきになってぼそっと呟く
ほのか「……いましたよ」
クラスメイト三人とあやめ先生の「え」と言う声がハモる
ほのか「彼氏、いたんですってば。中学の頃ですけど」
自分のことを何だと思っているんだと眉を潜めるほのか
クラスメイト三人とあやめ先生が「えええ!!!」と叫ぶ
◯久遠学院・廊下(午後・移動中)
朗読の個人授業へ向かうため、テキストや本を持ちながら廊下を歩くほのか
ほのか「あー……酷い目にあった」
ほのか(この後の朗読の授業の課題テキストは恋愛モノ以外にしてもらおう……うんざりよ)
(すんごい勢いで元カレについて食いつかれたけど、正直別にそんな話すことないっていうか)
(中二の時、その場のノリで付き合って卒業式で自然消滅したような関係だし)
(何回かデートもしたけど……あれが恋だったかと言われると)
元カレの後姿を思い出すものの、腑に落ちない様子のほのか
ふと手に抱えていた本『初恋は凛と咲く花のように』の帯に目が留まる
『眩しくて、そばにいると戸惑うくらいなのに、どうしても近づきたい』という一文が記されている
ほのか(『眩しくて、そばにいると戸惑うくらいなのに、どうしても近づきたい』か……確か、この小説の主人公が初恋に気づいた時の一文だったよね)
(前に久遠先輩が読んでたから気になって私も買って読んじゃったけど)
(もし、初恋が本当にそういうものなのだとしたら)
(きっと、私の初恋は)
ほのかがそんなことを考えていると、廊下の反対側からタイミングよく薔が歩いてきた
遠くから少しずつ近づいてくる薔をぼーっとした気持ちで見つめるほのか
薔がほのかに気がついて、いつもの柔らかい笑みを浮かべながら手を振ってくれる
薔につられて、ほのかも手を振り返す
薔「ほのか、これから授業?」
ほのか「久遠先輩、お疲れ様です。はい、これから朗読の個人授業です」
薔「そっか、頑張ってね」
廊下から差し込む光が薔を照らしている描写
ほのかは目を眇めて薔を見る
薔「そういえば、次の任務もまたほのかと一緒に行くことになるかも。今回は遠方だから泊まりで、日数としては────あれ、ほのか聞いてる?」
午後の日差しを浴びて、キラキラと光る薔に見惚れて話を聞き洩らすほのか
薔への恋心を自覚したことで暖かい笑みが溢れる
薔「ねぇ、私の話聞いてないでしょ。そんなに嬉しそうに笑ってどうしたの?」
突然嬉しそうに笑い始めたほのかにつられて、思わずといった様子で薔も笑い始める
廊下で穏やかに笑い合う二人