「ふあ〜!」

窓から零れる朝の日射しを受けて、あたしはベッドの中で背を伸ばすと、

ゆっくりと上半身を起こした。

乙女は朝からも、優雅でなければならない。

気品溢れる乙女。


あたしは、そんな乙女を目指していた。

何事にも動じない。

そう何事にも動じない。


あたしは、優雅にベットから起き上がった。

ハート柄のパジャマは、優雅とは程遠いけど、

ネグリジェはまだ早い。


兄と二人暮らしのあたしは、

たまに起こしに、部屋に無断に入ってくる兄に、思春期の体を見せるわけにはいかない。 

ゆっくりと、あたしは学生服に着替えようとして、絶句した。


目の前にある時計は、完全なる遅刻を告げていたからだ。


あたしは破るかのように、パジャマを脱ぐと、学生服を着ながら、

部屋のドアを蹴り開けた。

「お兄ちゃん!」

学生服に手を通す途中の段階で、廊下に飛び出したあたしの視線の向こうに、

出掛ける寸前の兄を睨んだ。

兄はもうスーツに着替え、鉄製のドアを開けようとしていた。

「おはよう」

冷静に言った兄は、ノブを回した。

「どうして、起こしてくれなかったのよ」

「起こすなと言っただろ」


確かに、昨日言った。


「だけど!」

「遅刻するなよ」

兄は無情にも、外に出ると、ドアを閉めた。 


兄である――結城哲也は、あたしの通う大月学園の教師である。

「お兄ちゃん…」

あたしは、まだスカートもはいていない状況で、閉まったドアを見つめた。


その結果。





「結城?お前…何度目だ」

校門の前で仁王立ちする体育教師熊五郎は、あたしを睨み付けた。

あたしは、にっと笑い、指を三本示した。

「三回?」

「はあ?」

熊五郎は眉を寄せ、

「五、足りんだろ?」

「はは…8ですか」

あたしは、頭をかいた。

熊五郎は眉を寄せながら、少し顔を近付け、

「×5だ」

「そ、そうでしたけ?」

あたしは、熊五郎から目をそらした。