「え、人を好きになるのって、どういう時なの?なんか、そういう分かりやすい瞬間とかあるの?」
「ちょ、お前、何を冷静に聞いてくるんだ?知らねーよ、そんなの。気付いたら好きだったんだから」
「じゃあ、特に何かきっかけとかはなく、1人でいる時にふと、あれ、これってもしかして、好きって事なのか…みたいな?」
「う、うん、まあ、そうだったかな」

ふうん…と真菜は再び考え込み始めた。

「えっと…真菜?分かってる?俺、真菜に告白したんだけど…」
「え、あっ!そうなの?」

はあーと拓真は、肩を落とす。

「頼むから、分かってくれよ。俺、ずっと前からお前のことが好きだったんだから。でもお前、憧れの告白の場面とか、なんか色々希望があるんだろう?だからなかなか言い出せなくて。でもさっきお前が専務のこと口にした途端、一気に嫉妬したんだ。告白のシチュエーションとかどうでもいい、お前を誰にも渡したくないって」

そう言って真っ直ぐ真菜を見つめる。

「理屈とか関係ない。俺は真菜が好きなんだ。だから俺と付き合って欲しい。返事をくれないか?」
「…拓真くん」

今まで見た事がないくらい真剣な表情の拓真に、真菜は何も言葉が出てこない。

「今まで俺のこと、そんなふうに見た事なかったんだろ?でも、俺はお前をずっと見てきた。これからもそばで見守りたい。だから、考えてくれないか?俺との事。職場も一緒だし、いつも近くにいられる。それにほら、陸・璃子ちゃん程ではないけど、名前も似てるしな、俺達」
「…名前、似てる?」
「ああ。真菜の真と、拓真の真。同じ漢字だろ?」
「同じ漢字…」

違う。本当に似てるのは、真菜の真と…

真菜は頭の中で考える。
これが、恋だと気付く瞬間なのかと。

そして顔を上げた。

「拓真くん、ごめんなさい。拓真くんの気持ちは嬉しいけど、私は拓真くんとはお付き合い出来ません」
「…真菜、どうして?ゆっくり考えてからでも…」
「ううん、私、好きな人がいるの」

はっきりそう言うと、確信した。

(私、真さんが好きなんだ)