恋に堕ちたら【完】



咄嗟に窓際のカーテンにくるまって、身を隠す。


「おい、」



突然カーテンが解かれて、先輩の顔がびっくりするくらい近くに現れる。




「っ、」





あまりの近さにグッと息を呑んだ。



ドンーーー




音と同時に、さらに近づく先輩の顔。


あと1センチ近ければ、間違えなくキスしてた。


近すぎてピントが合わない距離。



窓と先輩に挟まれて身動きが取れない。



「…せんぱっ、」



引力のある瞳が揺れていることだけは分かる。




「わりぃ。」


凌先輩も動揺していた。



体勢を立て直す先輩を見て、バランスを崩してあんなことになったんだどやっと理解する。


「…いいえ。」



気まずい雰囲気が流れる。


心臓はうるさいままで、身体が暑い。先輩の柔軟剤の香りする。




「あー!!傘を返しに来たんです!!ありがとうございました!!」



そう言って片手に持っていたビニール傘を先輩の胸板に押し付ける。



雰囲気を変えないと!



いつも通りに!!



「…ああ。」



そういえば今日は大きな目的があって、教室に来たんだった。


傘を返すのはここへ来る口実。



「あの連絡先教えてください!」




「…いやだ。」



どさくさに紛れて教えてくれると思ったのに!!




「どーしてですか!」






「俺に何のメリットもない。」