朝の電車。



雨のせいか今日はいつにも増して満員電車になっている。


「う、苦しい…」



私、岡崎茉莉(おかざきまつり)高校一年生。



朝からじめじめした空気の中、電車の中で人に押しつぶされている。


もうダメ、そう思った時。




「掴まれ。」



苦しい空間から突然解放された。



「へ?」



見上げると、同じ制服を着ている男の人。



…この人は、有名な刈谷凌(かりやりょう)先輩。



「いいから、押し殺されるぞ。」



壁にドン、いわゆる壁ドンをして私と他の人との間に空間を作ってくれている。


ちっ、近い。



「っ、はいっ」



大きく揺れる不安定な電車の揺れに、先輩の腕を持って支えてもらう。



無表情のまま、私を守ってくれる先輩に、あっという間に恋に落ちた。



学校の最寄りにつき、みんな一斉に降りる。




「あのっ、ありがとうございました!!」




何も言わずに、歩いていってしまう凌先輩の背中にそう叫んだ。




「…別に。」



めんどくさそうにゆっくり振り返る。





ああ、好き。




「私、岡崎茉莉と言います!刈谷凌先輩ですよね!」



刈谷凌、高校2年生。学校一のイケメンで、ファンクラブもあるほど。だけど、本人の性格は無愛想で、冷酷。



「そうだけど。」



話すのは今日が初めてだけど、存在は知っていた。