「彼女、ただいま募集中」
「同じく、彼氏募集中」
「寂しいわねぇ。まぁ、せいぜい慰め合いなさい。お母さんは、先に寝るわよ」
「おやすみなさぁい」
「お袋。おやすみ」
はぁ……。お母さんに言われなくても。一番自分が嘆かわしいわよ。
「裕樹。今夜は飲むよ。帰らなくていいから徹底的にね」
「あいよ。俺のペースには、ついてくるなよな。絶対、明日の朝、泣きをみるぞ」
「わかってるわよ。いい歳して、自分の限界わからなくなるまで飲まないって」
裕樹と久しぶりに飲んだ気がする。
「姉貴。日本酒いかない?」
「いいわよ。あっ、裕樹。携帯鳴ってる」
すると裕樹が画面を開き、メールだったらしく返信をしていた。
「冷やで、いいだろ?」
「勿論よ」
日本酒は昔は飲めなかったのに、何故か歳と共に飲めるようになってしまった。嫌だなぁ……。お酒の美味しさが、わかる歳になっちゃったって事だよね。
「姉貴。また強くなっただろ?」
「そう?日本酒の美味しさ覚えちゃったから危険信号だよね。日本酒は太るし……」
暫くするとまた裕樹の携帯が鳴ったが、裕樹は画面を開いただけでいきなり立ち上がると リビングから出て行った。彼女からかな?漬け物を食べながら、ひと口お酒を飲んでいると玄関のドアが開く音がした。何だよ、裕樹。そんなに私に聞かれたくない電話なのかな?
すると足音が聞こえ、リビングに裕樹が戻ってきた。
「裕樹。何やって……」
戻ってきた裕樹の後ろに、酔いから来る眠気も一気に覚めるような顔があった。
「ヨッ!酔っぱらい。元気か?」
和磨……。
「な、何言ってるのよ。酔ってないわよ、和磨。教師のくせに、人を見る目ないわね」
久しぶりに見た和磨は、浅黒く日焼けしていた。きっと部活の顧問の関係だろう。
「何時、帰ってきたんだ」
「さっきな。これでやっと一週間は部活がないから、これからが俺の夏休みだ」
「教師も大変だなぁ」
「本当に、思った以上に大変だぜ」
「和磨。何、飲むのよ」
グラスを持ってきて、座っている和磨の前に置いた。
「取り敢えず、ビールかな」
立っていたついでに冷蔵庫から缶ビールを二本持ってリビングに戻ってくると、和磨が 待ちきれないのか、私の左手から缶ビールをすかさず奪い取ってグラスに開けると、まるで一気飲みするかの如く、喉を潤していた。