しかし曲がる瞬間だった事もあって、そのまま和磨の姿は見えなくなった。今、目が合った気がするのは気のせい?立ち止まったまま、和磨の曲がった辺りを凝視していたが和磨の姿が路地から出てくる事はなかった。気を取り直してまた歩き出す。和磨はきっと暗かったし、距離も離れていたから私だってわからなかったのかも?和磨の家に曲がる路地へと差し掛かる。気付かれなかった事に内心ホッとしてるはずなのに、何でかな……悲しい気持ちで歩みを進めているのは。路地に差し掛かり、和磨の部屋を見上げた。部屋の電気は今日は付いてるだろう。あれ?まだ暗い。先にご飯でも食べてるのかもしれない。私だってお腹が空いてるぐらいだから、和磨はもっと……。ハハッ……馬鹿みたい。何で和磨の心配してるんだろう。私が心配しなくたって子供じゃあるまいし。ましておばさんが居るんだから、帰ればご飯は出来てるはず。気を取り直して早く家に帰ろう思い、元気よく 一歩を踏み出した。
「何、コソコソしてんだよ」
その声に恐る恐る振り返ると、反対側の路地から入って一軒目の家の塀に腕を組んでもたれ掛かりながら、和磨がこっちを見ていた。
「わざと離れて歩いたりして、そんなに俺に会いたくなかったのかよ」
和磨……。
会いたくなかった?
会いたくなかったわけないじゃない。
「そんな事……」
「そんな事?」
あぁ、言葉が見つからない。そんな事って、そういう意味じゃない。
「私が会いたくなかったんじゃ……」
あぁ、これも違う。私がじゃなくて、私は……だよ。和磨に会いたくなかったんじゃなくて、会うのが怖かった。
「会いたくなかったのは、 俺のせいとでも言いたいのかよ」
「違う……」
「俺のせいで会いたくないって、それ最悪ジャン」
違うのに……。
「和磨。違う……。言い間違えたの」
「……」
和磨が目を閉じ、天を仰いだ。和磨。そんな苦しそうな顔しないでよ。私は、ただ……。でもこんな私の思いが和磨を苦しめてる?今きっと、和磨に何を言っても駄目なような気がする。
「それが珠美の本心なのか?」
何て言えばいいの?思った事の半分も言えなくて、緊張して言葉を間違えて和磨を傷つけて……。
「何とか言えよ」
「ごめんね。和磨」
「珠美?」
和磨が私の腕を掴んだ。
「和磨……。離して」
すると和磨は、掴んでいた手を離してくれた。
「俺達、付き合わない方が良かったのかもな」