涙目になって見上げたそこにいたのは、僕の女神だった。


「何してるのよあんたたち!!」

「ゲッ、委員長…」


春日井さんは灰澤くんに臆することなく、彼の目の前に仁王立ちする。


「先生に言いつけるからね!」

「くっ…」


優等生で先生からも信頼される春日井さんには強く出れないのか、怯んだ灰澤くんは僕の髪を掴んでいた手を離した。


「黄瀬くんに謝りなさい!!」

「クソッ、いつもいつもエラそうにしやがって…生意気なんだよ!!」


灰澤くんは春日井さんのことを強く突き飛ばした。
廊下に倒れ込み、尻もちをつく春日井さんに慌てて駆け寄る。


「春日井さん!!」

「うう…っ」

「へんっ、ざまあみろ!!」

「春日井さん、大丈夫……?」

「……っ」


何とか起き上がろうとする春日井さんの目に涙が滲んでいるのに気づいて、自分でもびっくりするくらいにカッとなった。


「や、やめろー!!」


敵わないとわかっているのに、灰澤くんに向かって飛びかかった。


「何すんだよっ!!」


案の定、赤子の手を捻るようにあっさりと転ばされてしまう。
当たりどころが悪かったのか、ツーと鼻血が出てしまった。


「黄瀬くん!!」

「う…っ」


情けないな、僕は……。
助けてくれたのに、好きな子のことも守れないなんて……。

僕は、なんて弱くてダメなやつなんだろう。
悔しくて悔しくて、泣いたら負けなのに涙が出る――。


「ねぇ、もうやめたら?」