親の離婚は珍しいことではないとはいえ、小学生には少し衝撃的な話にただ黙って聞くことしかできなかった。
「自分が浮気して出て行ったくせに、久々に帰って来て何て言ったと思う?
お金を貸してくれって。信じられないわ……っ」
再び春日井さんの目は赤くなり、みるみる潤み始めた。
「お母さんは、私たちのために必死で働いてくれてるのよ……!
お母さんのこと捨てたくせに、またお母さんのこと苦しめるの……っ!最低よ、あんな人」
「お母さんは、大丈夫なの……?」
「はっきりと断ったし、お姉ちゃんも二度と来るなって言ってくれた……。
そしたらあの人、お前なんか一生男が寄り付かない、再婚なんて無理だって…お母さんのことバカにして……!!」
ボロボロと大粒の涙をこぼす彼女の背中を、そっとさする。
「あんな人、大嫌い……っ!!」
……君が恋愛を嫌う本当の理由は、それだったんだね。
男の人が信用できないと言っていたのも、浮気して出て行った父親のせいだったんだ。
きっと今まで、たくさん傷付いてきたんだろう。
誰にも言えず、たった一人で。
公務員になりたいと言っていたのも、女手一つで育ててくれるお母さんを安心させてあげたかったからなのかもしれない。



