おずおずと言ってみたけど、春日井さんは首を横に振った。


「大丈夫、迷惑かけられない」

「でも、心配だよ」

「大丈夫だから…っ!もう少ししたら帰るから、ほっといて…!!」


昔の僕なら、わかったって引き下がったと思う。
これ以上は入って来ないでと言わんばかりに線を引かれたら、それ以上は何も言えなかった。

でも、今はできない。


「放っておけないよ!!」


クールに見えるけど、本当は繊細な女の子なんだって知ってしまったから。

たくさん泣いて、今も必死に涙を堪えてる君のこと、放っておくなんてできない。

僕は無理矢理彼女の腕を取り、強引に引っ張った。


「ちょっと黄瀬くん…!」


そのまま僕の家まで連れて行き、冷房の効いた涼しい部屋に案内した。
冷たい麦茶を持ってくると、「ありがとう」と言って飲んでくれた。


「…黄瀬くんって、たまに強引よね」

「ごめん」

「ううん。…なんであなたには、情けないところばかり見られちゃうのかしら」

「…お姉さんと、喧嘩したの?」


春日井さんは首を横に振る。


「……父が、帰って来たの」

「お父さんが?」


春日井さんからお父さんのことを聞くのは初めてだった。


「うちの両親、離婚してるのよ。
父が職場の人と浮気して、別れたの」