「盗まれた!?どうして!?」

「わからない、何かの拍子に間違って持ち出された可能性もあるけど、ドレスと一緒にあったなら劇の小道具だってわかるはずよ。
それが一瞬の隙でなくなったんだとしたら…」

「盗まれた可能性は高いよね」


桃は大きく頷く。
衣装係の子はみんなワナワナと震えていた。


「誰がそんな酷いこと…!」
「一生懸命作ったのに!」


そうだ、夜鍋してまで一生懸命作ってくれたものなんだ。
何としてでも見つけたい…!


「そろそろ始まるわ。大志は行って」

「でも、王子の出番はまだ先だよ」

「何かあった時すぐに出られるようにしておいて欲しいの。
大丈夫、こっちは何とかするわ」

「っ、わかった…」


桃の言葉を頼もしく感じつつ、何もできない自分が歯がゆい。
ううん、今僕がすべきことは、劇を成功させることだ。

桃たちのことを信じよう。


「これより、1年3組の演目『シンデレラ』を始めます」


アナウンスとともに舞台の幕が上がる。
会場は拍手に包まれた。


「あるところに、シンデレラという心優しくて美しい少女が、家族とともに幸せに暮らしていました」

「シンデレラ役の子、かわいくない?」
「名前なんていうんだ?」


早速客席がざわつく中、僕は袖からさっちゃんを見守る。