「どうしたの?」
「ガラスの靴が…どこにもないの…!!」
「えぇっ!?」
泣きそうになりながらその子が言うには、宣伝回りから戻ったさっちゃんがドレスから普段着の衣装に着替えた時、ガラスの靴も一緒に控え室に置いておいたそうだ。
なのに、トイレに行ったほんの数分の間になくなってしまったらしい。
「絶対にドレスと一緒に置いておいたの!
なのにトイレに行った数分の間に、なくなっちゃって…っ」
「落ち着いて。まだドレスに着替えるまで時間あるわ、それまでみんなで探しましょう。
咲玖は出番だから行って!」
「う、うん」
「ごめんね…っ」
「あなたは悪くない。大丈夫よ」
まさかのハプニング発生でも、桃は冷静だ。
もう開演の時間が迫っているので、遅らせることはできない。
とにかく桃の指示通り、役者や一部の裏方組は劇に集中し、その間に他のみんなで手分けしてガラスの靴を探すことになった。
もちろん本物のガラスの靴ではないけど、衣装係がこだわりにこだわって作った芸術ともいえる作品なんだ。
本物のガラスみたいに割れて壊れるような素材じゃない。
多分だけど…、
「考えたくないけど、盗まれたんでしょうね」
「僕もそう思うよ」
誰かに盗まれたと思うのが自然なんだよね。



