ふらりと現れたのは、九竜くんだった。
「女子にまで手出すとかみっともないよ」
「九竜…テメェ……!」
灰澤くんは九竜くんが現れると、顔を赤くして睨み付けた。
何故かさっきよりもイライラしてかなりキレていて、危ない雰囲気を感じる。
だけど、九竜くんは全く動じることなく、眉一つ動かさない。
「テメェが一番気に食わねえんだよ…女子からチヤホヤされるわ、いっつも白凪にひっついてるわ」
「……」
「ウゼェんだよ!!」
「――危ないっ!!」
僕は咄嗟に叫んだ。
灰澤くんの大きな拳が九竜くんに向かって襲いかかる。
このままだと、顔面を思い切り殴られる…!!
だけど、そんなことはなかった。
九竜くんは灰澤くんの拳を片手で受け止め、そのまま捻り上げてしまったのだ。
「いって〜〜!!」
あの大きな灰澤くんが、全く振り解けない。
自分よりも背が低い九竜くん相手に、手も足も出なかった。
僕は呆気に取られ、涙は引っ込んでしまっていた。
「…他の女子はどうでもいいけど、咲玖は俺のだから」
「…っ!」
「――手出したら、絶対に許さない」
聞いたこともない低い声で言い放ち、九竜くんは灰澤くんを解放する。
そのまま灰澤くんと取り巻きは、泣きながら逃げて行った。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう…」
「ありがとう、九竜」
九竜くんは僕と春日井さんに手を伸ばし、引っ張り上げてくれた。



