「話すのは愚か、顔も見たくないくらいなんだけど」

奈帆は言い返すと、カラーリングの在庫を数え始めた。

「奈帆ちゃん、相馬さんとまともに話をしたことがないじゃない」

「向こうが話しかけてくれないし、こっちが話しかけても無視するし…そんなヤツと今さら何の話をしろって言うのよ」

「今後のこととか」

「婚約破棄をして欲しい、ただそれだけ。

何だったら1日に何回も毎日のように、口が酸っぱくなるどころじゃないくらいに言ってる」

「…どうして婚約破棄をしたいか、ちゃんと理由は言ったの?」

それまで在庫の確認をしていた奈帆が自分の方に振り返った。

「理由なんて…向こうが婚約破棄をしたがっているからでしょうが」

そう言った奈帆に、
「でも相手は婚約破棄をしたくないって言ったでしょ?」
と、哲郎は言い返した。