振り袖を着るのは5年ぶりだ。

「見て、『アロンジュ』のご令嬢の丸山奈帆様よ」

「今日もキレイだわ」

「お父様は代表取締役社長なうえに、ご自身もヘアサロンを経営なさっているなんて本当にすごいお方ね」

あちこちからささやかれる招待客の声を耳にしながら、丸山奈帆(マルヤマナホ)は着物姿で凛とその場にたたずんでいた。

セレブ御用達と称される『エンペラーホテル』のパーティー会場を奈帆は見回した。

「さすが、『二月銀行』の次期頭取こと相馬様のご婚約者様に相応しいわ」

「今日は2人の婚約パーティーですものね!」

「ああ、今から結婚式が待ち遠しいわ!」

その時、会場がざわめいた。

「相馬様のお越しよ!」

誰かがそう言ったので奈帆はそちらの方に視線を向けた。

「ーーえっ…?」

その光景を目にした奈帆は、自分の目の前で何が起こっているのかを全く理解できなかった。