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「ん……」

目を覚ました私の目に飛び込んできた衝撃の映像に心臓が止まりそうになった。

「なっ、……えっ? ええー?」

智光さんの寝顔が目の前にあったからだ。
しかも右手が重ねられてまるで手を繋いでいるかのよう。

これは一体……。

「……やえ?」

「お、おはよう、ございますっ」

気だるそうに目を覚ました智光さんがまた目を閉じた。

「……智光さん?」

「あー、すまない。寝落ちした」

「は、はあ……」

寝落ち?
寝落ちとは?

昨日の記憶を思い出してみるも、タクシーに乗ったところまでしか思い出せない。その後どうなったんだっけ?

あー、わからない。

自分の格好を見れば昨日のワンピース姿。
智光さんも、ジャケットは脱いでいるものの昨日のスーツ姿。

こ、これは……。

「やえが酔っぱらって寝てしまったからこうなった」

と、言われましても。
じゃあ何で智光さんと手を繋いで寝ていたの?

「やえが俺を離してくれなかったから」

「ひぃっ、ご、ごめんなさいっ」

青ざめる私の腰がおもむろに引き寄せられる。体を起こしていたのにまたしてもコテンと横にされた。そして後ろから抱え込むようにぎゅうっと抱きしめられる。

「とっ、智光さんっ?」

「冗談だ。やえの寝顔を見ていたら俺まで寝てしまったというだけの話だ」

「……そ、そうですか」

で、これは一体どういうこと……。
ドキンドキンと鼓動が速くなる。抱きしめられているから私の鼓動が伝わりそうで怖い。

髪に智光さんの顔が埋められた。
くすぐったくて反射的に身を縮める。

「やえは甘い香りがする」

耳元を掠めていく唇に体の奥がぎゅんと疼いた。

やだ、こんなの恥ずかしい。
だって昨日はお風呂も入っていないのに。
それなのに甘い香りだなんて、智光さんの変態っ。

「あっ……」

と気づくのと首筋が一瞬じゅっと鈍く痛んだのは同時だった。

ガバッと身を起こすと後頭部にゴチッと鈍い衝撃。
振り向けば智光さんが鼻を押さえている。

「あ……ごめんなさい」

「……いや、大丈夫。シャワーでも浴びてくるか」

「そう、ですね」

何でもなかったように起き上がる智光さん。
私はドキンドキンと暴れる心臓の辺りをぎゅっと握りしめる。

一瞬思い出してしまった、お兄さんのことを。
変態って叫んだあの時のこと。

だけど違うの。
あんな恐怖はまったくなくて、智光さんに触れられた部分が熱くてたまらない。触られて、抱きしめられて、この先のことを想像してしまって体が何かを求める。そんな、あるわけないのに。

あるわけ……ない……よね?