――智光さん、好き

あれは本心だったのだろうか。酔っ払いの戯言か。
酒を飲むと本性が出る。そうかもしれないがこれに至っては自信が持てない。
そこではっと思い出す。

――私を助けるために慈悲で結婚してくれたんだもん

やえは俺との結婚をそんな風に感じているということか……。

「これは由々しき事態だな」

ふむ、と考える。
どうしたらやえはわかってくれるだろう。
好きだと言えばわかってくれるだろうか。やえのことが大事だと、愛しくてたまらないのだと伝えたらいいのだろうか。だけどそれを伝えてやえも同じ気持ちだったとして、果たして俺を受け入れてくれるのかどうか――。

そこまで考えて俺は思考を止めた。
違う、今考えるべきはそこじゃない。
やえの心の闇が先だろう。

「やえ、心配しなくていいからな」

そうっと頭を撫でてもぐっすり眠ったままのやえ。
穏やかな顔で眠っている様子にひとまず俺は安堵した。
せめて夢の中だけは、嫌なことを忘れられますように。