愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】

今日は簡単に、親子丼と若布のお味噌汁にした。
本当はいろいろ作ってみたかったけれど失敗したら目も当てられないから、とりあえず短時間でできる無難なものにする。

「何か手伝おうか?」

「そうですね、じゃあ、若布をひとつまみ入れてください」

私は乾燥若布の袋を手渡す。
智光さんはおもむろに手を突っ込み、ガッと若布を握った。

「ちょ、ちょっと待って!」

慌てて智光さんの手を押さえる。
智光さんはキョトンと首を傾げた。

「これじゃあひとつかみになっちゃいます。若布だらけになるので……」

「そうか、難しいな」

真面目に難しい顔をするので、本当にわかっていなかったらしい。
何でも完璧にこなしそうな智光さんの意外な弱点を発見した気がする。

「本当に料理しないんですね」

「しないな」

「智光さんにお任せするとすごいものができちゃいそう」

「そうだろうな。だけどこうしてやえとキッチンに立つのも悪くないと思って」

「うっ」

「邪魔だったか?」

私はフルフルと首を横に振る。
そんな新婚さんみたいなことを言われると何だか恥ずかしくなってくる。

やばい、すごく嬉しいって……思っちゃう。

「やえ、とりあえず手を離して」

智光さんに申し訳なさそうに言われて私は自分の手の行方を追う。先ほどひとつかみの若布を入れようとした智光さんの手を思い切り押さえ込んでいた。

「はっ! ごめんなさいっ」

「いや、全然構わないけど。ひとつまみって、こんな感じだろうか?」

「え、あ、はい。そうです、それくらい」

ドキンドキンと心臓が脈打つ。
思わず智光さんの手に触れてしまった。
その事実がとんでもなく胸を揺らす。

ああ、こんなことくらいで動揺するなんて、私ったらどうかしてる。