特命作業があると呼ばれた社長室で、敦子さんはこれでもかと目を丸くして驚いた。

「なあに、あなたたち、いつの間に?」

「えっと……」

言葉に詰まるも智光さんは涼しい顔で言い放つ。

「実は僕がずっと好きだったので、猛アタックしてようやく首を縦に振ってもらえました」

「んまっ! イケメン!」

敦子さんは智光さんを囃し立てる。

本当は違うんです、智光さんは慈悲で私と結婚してくれるんです……と喉元まで出かかったけれどさすがに言えるわけもなく、曖昧に笑ってごまかした。

「社長ったらずっとやえちゃんのこと大事にしていたものねぇ」

「そうですね。敦子さんにはお見通しでしたか」

「何言ってんの。皆わかってるわよぉ」

敦子さんはカラカラと笑いながらバシンと智光さんの腕を叩く。

「敦子さんには敵いませんね」

智光さんも朗らかに返事をしているけれど、なんだか私だけが話についていけていない。

「あらやだ、やえちゃんったら何て顔してるの」

「だ、だって……」

「もしかして気づいてなかったクチ?」

気づいていなかったとは何のことだろう?
智光さんが私のことを大事にしていたって話?

それだったら敦子さんの勘違いだ。確かに智光さんは大事にしてくれるけれど、それは私だけじゃなくて全社員に言えることだもの。智光さんは皆に優しいの。社員想いなの。