コンビニくらい、今まで行こうと思えばいくらでも行けたはずだった。

けれど毎日の家事に追われていたことや無駄遣いをする余裕がなかったこともあり、家と会社の往復か近所の安いスーパーしか入ったことのなかった私。
コンビニの品揃えのよさに目を丸くして感動すら覚える。

世の中にはこんな世界があったんだなあと思うと、今まで自分はどれだけちっぽけな世界で生きてきたんだろうと実感する。当たり前だと感じていた生活に急にタガが外れた気がして、少し怖い。

「決めた?」

「はい、おにぎりにします」

私はツナマヨおにぎりとレモンティーをレジへ持って行った。
この組み合わせも高校の時に同級生がよく食べていたから。それを今さら真似るなんて滑稽かもしれないけど、またひとつ夢が叶ったようで嬉しくなった。

お財布を出そうとすると、智光さんは「一緒に」と言ってコーヒーと時雨おにぎりを店員さんへ手渡す。そしてスマホひとつでピッとお支払いが完了してしまった。

呆気に取られている私に智光さんは笑みをひとつ。

「なんか反応がいちいち可愛いな」

と楽し気に微笑む。

いえ、こちらの方こそ、私のお上りさんみたいな反応に対していちいち笑ってくれる智光さんの笑顔の方が何十倍も何百倍も貴重なんですよ、と心の中で叫んだ。

智光さんってこんなにも表情豊かに笑う人だったんだ。
敦子さんたちにも教えてあげたいような自分だけの秘密にしていたいような複雑な気持ち。