「えっと……」

「ああ、すまない。君に恋人がいるなら失礼なことを言った」

「いえ、いませんけど……でも……」

社長こそどうなんだろう。結婚を勧めてくるくらいだから恋人はいないと思っていいのかもしれないけど……、それにしても、だ。

「幸山さんにはメリットしかないと思う」

「メリット?」

「そうだ。まずは家を出ることができる。出たかったんだろう、家を」

ゴクリ……と喉が鳴った。

確かにそうだ。結婚するとなれば社長と暮らすわけであの家を出ることになる。

それはとんでもなく魅力的で魅惑的で、私の心を揺るがすには十分すぎる言葉で――。

「俺と結婚すれば守ってやることもできる。お金の心配もいらない」

「でも……社長には何のメリットもない……」

「メリットか? 俺にはメリットしかないな。こんなに可愛い幸山さんが俺の妻になるんだから」

「……」

カアアッと体の奥が熱くなる。
いいのだろうか、本当に。
素直に頷けないでいると、ふいにぽんと頭に手が乗った。

「素直に頷いておけ」

心を見透かしたかのように紡がれる言葉。

社長の好意を受け入れてもいいのだろうか。
甘く微笑まれるともうダメだ。魅入られたかのように社長から視線が外せなくて――。

「……はい、お願いします」

肯定以外に答えが見つからなかった。