「それより敦子さん、事務所裏の桜見ました?」

「見た見た! もうすぐ満開じゃない?」

「ね。綺麗ですよね。お花がこぼれ落ちそうです」

「牡丹桜だもんね。あの下でお花見したいわよねぇ」

キャピキャピと始業前に話をしていると、後から出勤してきた人たちが一人二人と話に加わる。

「いいじゃん、お花見。やりましょうよ」

「仕事終わった後の夜桜とか?」

「いいねぇ」

こんな風に和気あいあいと話ができる職場で、とてもありがたく感じている。

正直、私は会社にいるときが一番楽しいし、この会社で働くことができて本当に恵まれていると思っている。私を雇ってくれた先代の社長に感謝だ。

「ちょっとちょっと~、夜桜はダメよ。私とやえちゃん、夜は残れないもの」

ねえ、と敦子さんが同意を求めるので私はコクンと頷いた。

敦子さんは十五時までの時短パートさんで、ご両親の介護もしているらしい。

私はフルタイムで働くものの、ときどき残業はすれど、夜のイベント事は参加することができない。
なぜならそれは、家庭環境がそうだからとしか言いようがないのだけど――。