久しぶりにやえよりも早く目を覚ました。
昔の夢を見てしまったからだろうか。
目覚ましのアラームもまだ鳴っていない。

隣ですやすやと寝息を立てるやえはとんでもなく可愛らしい。引き寄せて抱きしめたいけれど、そんなことをしたら起こしてしまいそうだし、しばしやえの寝顔を堪能することにした。

……が。

「う……ん……」

これまた可愛らしい吐息とともにこちらに転がり、抱きしめてくれと言わんばかりに俺にピッタリとくっつく。

ああ、もうこれは抱きしめるしかないと思うのだが。でも起きたら可哀想だよな、なんて良心も痛んだり。

やえを前にすると俺の思考回路はとたんに中学生レベルになる。夫婦なのにもどかしい恋愛をしているような気持ちになるのはなぜなんだ。

柄にもなく心臓をドキドキさせながら、そうっとキスを落とした。

「……ふふふっ」

突然笑い出すものだから俺は焦る。

「ごめん、起こした」

謝れば、すやすやと寝息。
……もしかして寝言か?

完全に翻弄された俺はモヤモヤなのかムラムラなのか、よくわからない感情のままやえを抱きしめた。

ふわりと香る甘い匂い。
シャンプーなのか柔軟剤なのか、はたまたやえのフェロモンなのか。
とにかく心地よい香り。

しばらくすると俺の背にやえの手が添えられた。
自らぎゅうっとしがみついてくる。

なんだこれ、可愛すぎるのだが。

ふと顔を上げたやえは驚いたように飛び起きた。

「いっ、いま何時?」

枕元の時計と俺の顔を何度も見て「え?」と一言、固まった。

「……どうした?」

「智光さんが起きてるから寝坊したかと思いました……」

「そんなに俺はいつも寝ているかな」

「寝ているというか、寝ぼけてますよね?」

どうやら俺がやえより先に目を覚ましていることが珍しいらしい。そんなことはないと思うのだが、まあ、やえが言うのならそうなのだろう。

「じゃあ、おはようのキス」

「えっ!」

とたんにやえはボボボと顔を赤らめる。

「いつもしてくれてるだろ?」

「そ、それは智光さんを起こすためのものであって、……起きてたらなんか恥ずかしいというか……」

ゴニョゴニョと語尾がフェイドアウトしていく。

「じゃあ寝るから、いつものやつ」

俺は目を閉じる。
迷っているのか躊躇っているのか、変な緊張感がひしひしと感じられ何だかこちらまで緊張してきた。
近づく気配がしてその時を待つ。

ちゅっと軽くて柔らかな唇が触れた。

目を開けた俺と視線が交わると、頬をピンクに染めたやえがぷいっと目線をそらす。

クソ可愛い。
どこいった、俺の語彙力。