よく晴れた秋の日。
緑に囲まれて静寂に包まれた隠れ家のような料亭で、結婚パーティーが行われた。

畳張りの部屋にはテーブルとイスが並ぶ。
結婚式さながら真ん中に紅い絨毯が敷かれ、智光さんと歩いて入場する。

紋付き袴姿の智光さんは見目麗しくて隣に立つのがおこがましいというか、なんだか緊張してしまって直視できない。

私はといえば、桜のデザインされたピンクを基調にした生地に水色の刺し色が入った着物。見た瞬間にこれだって思った。

髪には八重桜の髪飾り。これは小さいころ母からもらったもの。「やえが成人式のときに髪につけてね」とプレゼントされて大切にとってあった。成人式には出られなかったから、今回どうしても付けたくて、そして何よりこの着物とよく合うと思った。

智光さんは二着でもいいと言ってくれたけど、これで十分。これ以上は申し訳ない気持ちが出てしまうから遠慮させてもらった。そんな私の心情を汲み取ってか、智光さんは何も反対することなく「やえがいいなら、そうしよう」と言ってくれた。いつも私の気持ちを大事にしてくれる。

「やえちゃん、おめでとう!」

「お幸せに!」

あたたかい歓声と拍手に包まれて、じーんと胸が熱くなる。
ソリューショングループのメンバーだけじゃなく、他部署の方々もたくさん来てくれている。
こんなにも盛大にお祝いしてもらえるなんて思ってもみなかった。

「やば、社長めちゃくちゃかっこいい……」

そんな声も聞こえてきて、うんうんと一緒に頷きたくなる。
本当にそうだよね、智光さんはすっごくすっごくかっこいいの。
それなのに相手が私でごめんなさ――。

「二人、お似合いすぎよね」

「ね、見てるだけで幸せになる」

そんな声が聞こえてうつむきがちになった顔をはっと上げれば、すごく穏やかな顔をした智光さんと目が合い、そして熱く絡み合った。
くっと目尻が落とされると「愛してるよ」と、とびきりの笑顔で嬉しそうに微笑まれ……。

瞬間、体の奥から熱いものが込み上げてくる。

ああ、なんだろう、こんな幸せで満たされる気持ち。
こんな風に感情が揺さぶられるなんて。

「智光さん、私……生きててよかったです」

はらり、と雫が落ちた。

「ああ、生きていてくれてありがとう」

智光さんは私の手を握る。
優しくてあったかくて頼もしくて。
絶対に離さないとばかりにきつく握られて。

私はここにいていいんだって、思わせてくれる。
私はもう、一人じゃない。

「……嬉しいです」

瞬きするたびに、はらり、はらりと落ちる涙。
胸がいっぱいで苦しくて、でもそれは心地よい苦しみ。

「私……幸せです!」

ぐしゅぐしゅと鼻を啜りながら伝えれば、ひときわ大きな歓声と拍手に包まれた。

よく手入れされた美しい庭では小鳥たちが戯れ、開放的な窓からは燦々と光が差し込む。
幸せと祝福に満ちあふれ、すべてがキラキラと輝いて見えた。

ああ、世界はこんなにも明るかったんだ。


【END】