仕事内容が庶務と営業事務の私は、他の社員さんに比べて会議が少ない。そんな私に久々に会議招集がかかった。

ノート片手に会議室へ入れば、そこには私の所属するソリューショングループの面々が勢揃いしていた。長机の両側に椅子があり、八名座れる。

「やえちゃんはそっちね」

「あ、はい」

指定された席は長机の短い部分、そう、いわゆるお誕生日席。なぜ? と思いつつもモニタがよく見える位置なので大人しく座る。

「では第一回、やえちゃんのウェディングミーティングを開催します!」

敦子さんが高らかに宣言し、拍手が沸き起こる。

ん? ちょっと待って。
今、「やえちゃんのウェディングミーティング」って聞こえたような……。

慌てて敦子さんを見れば目が合い、こちらに向かってぐっと親指を突き立てる。
いやいや、そうじゃなくて……。

「ちょっと待ってください。話が見えません」

質問すれば全員の目がこちらを向いた。
え、なになに、ちょっと、怖いんですけど……。

「あのね、やえちゃん。あなた結婚式してないでしょう。私たちはやえちゃんの結婚パーティーをしたいと思っているの」

「ええっ?」

「だってねぇ、やえちゃんの花嫁姿、見たいわよねぇ?」

「見たーい!」

「こら、安川、田辺! あんたたち調子に乗るとセクハラになるから黙ってなさい!」

敦子さんにぴしゃりと咎められて安川さんと田辺さんは口を慎む。

「えっと、でも別に私は結婚式なんてなくてもよくて。その、皆さんのお気持ちだけで十分というか……」

「やえちゃんが十分でも、私たちがよくないのよ。社長が入院して大変だったでしょう。快気祝いもかねて、二人のお祝いをさせてほしいのよ。それに、娘の花嫁姿“お母さん”はすっごく楽しみにしてたんだから」

茶目っ気たっぷりにウインクする敦子さんに胸がじーんと熱くなる。

「いいんですか?」

「いいに決まってるでしょう?」

結婚式のことなんて頭になかった。智光さんとの結婚は成り行きだったし、その後はちゃんとした夫婦になりたいとばかり思っていたから。

それに、たとえ結婚式をしても、私にはお金もないし呼ぶ人もいない。それなのにこんなあたたかい提案をしてもらえるだなんて。

「ありがとうございます。嬉しいです」

「じゃあさっそくだけど、和装か洋装、どっちにする?」

「えっ? えっ?」

ずらりと並べられたパンフレット。
結婚パーティーといいながら、結構本格的なプランが書かれていて私はたじろぐ。

その後、仕事そっちのけでどの会場にするか、日程など、あたかも会議をしているかの如くきっちりとスケジュールが決められ、議事録まで作成された。

しかも最終的にはその議事録が社長の智光さんへメールで報告されたのだった。