帰路につくため車に乗り込むと、すっと智光さんの手が伸びてきて私の頬に触れた。
「顔が真っ赤だ。大丈夫か? やえは色が白いから」
「日焼け止めは塗ったんですけど、熱がこもっているみたいです。智光さんこそ時計焼けしてませんか?」
「やえに借りた日焼け止めを塗ったつもりだったけど、手首は塗り忘れたかもしれない」
「シャワーすると痛いかもですね」
「確かに。だが汗だくだから早くシャワー浴びたいな」
「間違いないです」
私たちはクスクスと笑う。車のクーラーがとても心地いい。
「智光さん、連れてきてくださってありがとうございました」
「俺も、やえのご両親に挨拶ができてよかった。夢では言いそびれてしまったから」
「あの……なんて挨拶したんですか?」
智光さんはちらりとこちらに視線をよこす。運転しているのですぐに前を向いたけれど、なにかを考えるようにしばらく黙った。
「……やえと結婚しましたと報告をした。やえは……これからどうしたい?」
ドキリと胸が揺れる。
「私は――」
あの日智光さんに言えなかったこと。
これから私はどうしたいか、ずっと考えていた。
智光さんは離婚してもいいと言った。それが智光さんにとっての幸せなんだろうと思っていた。私なんかにとらわれてほしくなくて、智光さんは智光さんの幸せを見つけてほしいと思っていたから。
だけどお義父さんお義母さんや石井さんからの話を聞いて、もしかしたら智光さんも私のことを好きでいてくれるのかもしれないって思ってしまった。勘違いだったらどうしようって何度も何度も考えた。けれど結局行きつく答えはひとつ。
「私はこれからもずっと智光さんと一緒にいたいです」
意を決して告げた。
拒否されたらどうしようって不安もあったけれど、智光さんは前を向いたまま「そうか。ならそうしよう」とだけ言った。
その言葉自体は嬉しかった。私を否定しないでくれるいつもの智光さんらしい言葉だとは思った。
だけど心の奥がモヤモヤとしてしまう。
きっと今、私はとても欲張りになっている。
智光さんの本当の気持ちが知りたい。
私のことをどう思っているのか教えてほしい。
車は市街地へ入ってからはあっという間に自宅マンションへ着いた。どういうわけか、その間私たちは一言もしゃべらなかった。



