いつかは家を出ようと思っていた。
本当は高校を卒業したら自立して、一人暮らしを始めようと考えていた。

そんな人生計画は甘かったとばかりに一蹴されて叔父さん叔母さんの元で暮らすこと早十年。

ようやく家を出られたのは智光さんが助け出してくれたからだ。

あの日、叔父さんと叔母さんが旅行にいかなかったら?
あの日、お兄さんに襲われなかったら?
あの日、死のうと思わなかったら?

理不尽で苦しい生活は今も続いていたのかもしれない。

だからといってあの思い出が美化されることはないけれど、結果的に良い方向に転がったのもまた事実。

叔父さん叔母さんの家の前で私は大きく深呼吸をする。
智光さんが心配そうに手を握ってくれた。
それだけで強くなれる気がする。

智光さんの横には智光さんの同級生だという石井さんが立つ。石井さんは腕の立つ弁護士さんで、智光さんから依頼されて私の助けになってくれる強い味方だそうだ。

「やえさん、大丈夫ですよ。私にお任せください」

「はい、ありがとうございます。お世話になります」

「石井、気安く名前で呼ぶな」

「しょうがないだろ。お前と結婚してるんだから、久賀さんじゃどっちのことかわからなくなる」

「あ、私は名前で大丈夫ですよ」

「ほらみろ」

実は私の知らないところで智光さんが弁護士さんに手を回してくれていたことをつい昨日知らされた。

叔父さん叔母さんが私の両親の遺産を使い込んだり私の貯金を使い込んだりしたことを、どうにか罪に問えないかと石井さんに相談してくれたらしい。

そんなことをしていただなんてまったく気づかなかった。本当に、頭が下がる。

それに、石井さんのお父さんは久賀産業の顧問弁護士をしていて、会長とも繋がりがあるらしい。

知らなかったのは私だけで、私が家を飛び出したあの日からずっと、叔父さん叔母さんと話し合いが続けられていたのだとか。

そんなわけで、強力な味方を引き連れて、私は久しぶりに叔父さん叔母さんの家の前まで来ていた。