だけど智光さんは私が目を覚ましたときにはベッドにいなくて、はたして彼はベッドで寝たのかどうかもわからない。

朝は苦手と言いながらもリビングへ顔を出せばもう智光さんがいて、テレビでニュースを流し見しながら手元にはたくさんの書類。

夜は遅くまで、朝は早くから、そんなにも仕事が忙しいのだろうか。だとしたら本当に申し訳なくなる。私だって智光さんの役に立ちたいし、迷惑をかけたくないのに。

「おはよう、やえ」

「……おはようございます。智光さん、ベッドで寝ましたか?」

「ああ、寝たよ。昨夜もやえの寝顔は可愛かった」

「なっ、何見てるんですか!」

「仕方ない。可愛いから」

しれっと言ってのける智光さんだけど、なんだかそれが少しよそよそしくて。そんな風に感じてしまうのは、昨日の朝の出来事があったからだろうか。それに「やえのキスで起こして」って言ったくせにベッドにいないんだもの。

「どうかしたか?」

「……別に、なにも」

キスしたかった……なんて煩悩はしゅしゅっと追い払った。例えキスをしたとしても、智光さんみたいな上手なキスはできないし、がっかりされても困るし。……って、本当に煩悩どっかいって。

「……はあ」

こっそりとため息をつく。とにかく私は智光さんのお仕事の邪魔にならないよう、大人しく過ごそう。

そうやって気持ちを切り替え、そしてそのまま智光さんとの触れ合いがまったくないまま数週間経った。

なんだか寂しく感じてしまうのは私のわがままだろうか。