あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 
 「やだ、やめて」
 
 頭のうえにチュッとキスを落として、降りていく。

 「着替えて準備できたら下に降りてきて。食事にしよう」
 
 そう言うと出て行った。


 食事をして、手をつないで歩いて行く。

 この間は暗いときに来たから見えていなかったけど、たくさんのビニールハウスや畑が見える。

 「前に話した、君の花を作る話。覚えてる?」
 
 「うん」
 
 「いくつか試作して、地植えしたんだ。次の春には花が咲くだろう。それで様子を見てどんな色でどんな花が咲いてどんな香りか確認する。ダメならまた作り直して来年か再来年かな」
 
 「……大丈夫。待ってるから」
 
 「俺が待てるかな。それが心配」
 
 「どういう意味?私に飽きて、他の人の花を作りたくなるとか」
 
 「……俺はね。プロポーズは指輪ではなく、自分の作った花を彼女にあげたいと前から決めてた」
 
 びっくりして、立ち止まる。
 背の高い彼を下から見つめる。
 
 「待っててくれる?俺は君にあげたいと思って作ってる」
 
 「……大好き。ずっと待ってる。だから途中で適当にしないでね」