あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 
 「へーえ。早瀬さん、良かったね。きちんとした人みたいだ。彼女を変えたのは君だったのか。元々綺麗だったけど最近彼女明るくなったんだ。やっと食事に誘えたんだけどね。……君、気をつけろよ、今後もこういうことはありうるかもな」

 宗吾さんにそう言うと、日高さんは私にウインクして帰って行った。

 宗吾さんは私に荷物を持ってくるように言うと、バーテン君に相談した。
 
 「先ほどの騒ぎのお詫びにみなさんに何か一杯ずつ奢るから、どうかな」
 
 「……そうですね。一応城田さんも玲奈さんも常連ですからそのほうがいいかもしれないですね。適当にこちらでやりますよ。お支払い大丈夫ですか?」
 
 「ごめん、すぐに下に戻らないと行けないから、俺につけといて。明日にでも必ず払いに来るから」
 
 「いいですよ、今度でも。その辺は信用してますから」
 
 「バーテン君、私が今払うわ」

 「だめだ」
 
 「玲奈さんはいいですよ」

 ふたりに言われてあきらめた。

 「玲奈。下片付けてくるから。待っていられる?」
 
 「はい」
 
 バーテン君が入り口へ一番近いカウンター席に私を案内した。
 彼は私の目を見て、下に戻っていった。