あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い


 白い花が所々咲いている。

 頭にはタオルを巻いて、首にもタオル、Tシャツにジーパン、長靴。
 今日はサングラスはしていない。

 声をかけるか迷っていたら、女性の声がした。

 「あら、宗吾。また、そんな土まみれで、表に出ない方がいいわよ」
 
 取材票を首から下げたパンツスーツの女性が男性と一緒に歩きながら宗吾さんの前に来ると止まった。

 「塔子。これが仕事だ。どいてくれ」
 
 宗吾さんはそう言うと、彼女の前を通り過ぎる。

 「ここは園内のメインストリート。なるべくなら、あなたは裏から植木を運んだ方がいいんじゃないかしら?」

 横にいる男性が頷いて答えた。
 
 「たしかに。ここに土が落ちると、あまり綺麗ではないな。ここはオフィス街からも近い。ヒールで来る女性もいるからな」

 私はつい、前に出て話してしまった。
 
 「そうでしょうか。土がない植物なんて、植物ではありません。花だけ見て土を嫌がるなんて、このフェスタの意味がないような気がします。緑も楽しむのであれば、土は必要不可欠。見せないようにするなんて、ナンセンスです」

 私は言い切ってから、あっと口を覆った。