あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 
 すると、彼はぎゅっと私を抱きしめた。

 土の匂いがする。

 落ち着く。

 だから平気なんだ。

 昔祖母の庭の中でかいでいた匂い。

 
 「大丈夫?」
 
 「うん」
 
 頭を私の肩につけてじっとしている。

 
 「さっき。店でいつまでも待ってくれるって言っただろ」
 
 「うん」

 
 「まるで、将来ずっと一緒にいてくれるって言ってるみたいだったから興奮して衝動的に抱きしめたくなったんだ。理性が飛んだ、ごめん」
 
 「大丈夫。だから……距離を置かないで。お願い」


 「……うー。そんなこと言うな。もう、どうしたらいいんだよ。これでも大分こらえてるんだから、煽るな。ゆっくり行こう。玲奈のペースでいいんだ」