あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 
 嬉しそうに私を見ている。

 「楽しみにしてます。でも時間かかるでしょ?」

 「そうだな。出来れば最低二年~三年くらいはみてほしいとこだな。失敗もあるから」

 「大丈夫ですよ。……いつまでも待ってるから」

 すると、彼は顔を手で覆った。

 そして、私の手をつかむと、席を立った。

 ずんずんと進んでいく。

 あっという間にお会計をして、出口へ。

 え?帰るの?

 正門の裏側を入っていく。

 細い路地があって、大きな木が周りにある。
 
 その大きな木が並んでいるところに、私を引っ張ると突然抱きしめられた。

 「……やめてくれ。突然、殺し文句言うなんて。あんなところじゃ、抱きしめられない」
 
 え、え、何か言ったっけ?

 彼の厚い胸板に抱きしめられると、大きなクッションに挟まれているみたい。
 
 身動きひとつ出来ない。

 なんかクラクラする。
 
 息を止めていると、そっと私を放して、顔をのぞき込んできた。

 「ごめん。大丈夫?」
 
 ふらっと彼に倒れ込んだ私を見て、慌てている。