あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 
 「すごーい、綺麗だわ」

 連れてきてもらったバラ園にはたくさんの色とりどりの花が咲いていた。
 
 天気も良く、朝早いので香りがする。

 朝早い方がいいという、彼の助言に従って、開館時間に行ったのだ。


 「そんなに喜んでもらえるとは。なんか複雑だな」
 
 「え?」


 「僕の前で見せる笑顔より輝いてる。花に負けてる気がする。悔しいよ」

 もう、どうしてそんなこと言うの?
 
 恥ずかしい。顔に熱が集まりそう。


 「真っ赤になって。可愛いな」
 
 そう言うと、彼は私の手を握って進んでいく。

 
 彼の詳しい花に関する説明を聞きながら質問したりして楽しい時間が始まった。

 「ここに来て良かったよ」

 
 昼休み、食事をしながら急にそんなことを言う。
 
 「そうですね、想像以上にまだたくさん花がありました」


 「そうじゃなくて」
 
 「え?」

 「君のバラを作るって言ったろ。いろんな花を見ている君を見てたらイメージがわいてきた。すごいヒントになったよ。君の好みも知れたしね。僕のイメージと君の好きな花。どちらもうまく当てはまるものができるといいんだけど」