涼くんをリビングへ通す。わたしの部屋を使っても構わなかったが、涼くんが嫌がったのだ。

「あっ、問題集持ってくるね。適当に座ってて」

「あぁ」

 直に床に座り、ソファーやクッションを使わない。そりゃあ自分の家じゃないので快適な居心地とはいかないだろうが、涼くんは明らかに身の置き場に困っている。
 わたしと過ごす時間にそわそわ何処か落ち着かず、会話を投げかけてみても短く打ち切られてしまう。

 それから授業内容は教えてくれるものの、教室の様子や高橋さんについては語らない。

「あっ、喉乾いてない? 麦茶ならあるよ。だんだん日射しが強くなってきたね」

 ブラインドを下ろしつつ、尋ねる。

「飲み物持ってきた、いらない。相変わらず暑いの苦手なのか?」

「暑いのが苦手というか、日射しかな。日焼けすると痛くて」

 涼くんは通学鞄の中からスポーツドリンクとノートを取り出す。ノートはテーブル越しにこちらへ滑らせ、ペットボトルをわたしとの間に置いた。

「? それ、見慣れないスポーツドリンクだね」

「だろうな、市販はされてない」

「へぇ、そうなんだ。美味しい? ひとくちちょうだい」