約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

「駆け落ち? 馬鹿を言わないで頂戴!」

 わたし達がお父さんの世界観に入り込めない中、非難するのは涼くんのおばさん。

 おばさんはお裾分けと思われるタッパーを抱え、それをお父さんへ突き付ける。

「そうだよね、駆け落ちなんて。お父さんがまた変な妄想を口走ってるだけ、気にしないで?」

 わたしが急いで同調すると、おばさんは真顔で涼くんに言う。

「涼、駆け落ちしてもいいけど桜子ちゃんは置いていきなさい」

「……」

 おばさん以外、沈黙。それじゃあ駆け落ちでなく家出。しかしおばさんは気まずさなど感じないらしく、わたしの顔をみて嬉しそうにする。

「あぁ、桜子ちゃん、退院できたのね! 良かった」

「心配かけてばかり、ごめんなさい」

「桜子ちゃんが謝ることじゃない。可愛い顔がまた見られるだけで、おばさんは幸せ。ん、少し痩せた? 桜子ちゃんの好きな煮物を作ったから食べられそうならどうぞ」

「ありがとう、おばさん」

「いいのいいの! 足止めしちゃってごめんなさいね。この汚い小僧は回収していく。ほら涼、行くよ、部屋に上がる前にシャワー浴びなさい」

 嵐のような勢いでおばさんは涼くんを引きずり、去ってしまう。

「桜子は皆に愛されているな」

 我に返ったお父さんがそっと肩に手を回し、わたしのコンプレックスまで包んでくれた。