くすくす笑うお母さんと反応に困るわたしに気取ったのか。涼くんは牽制しようと振り向くも、わたしと目が合うなり露骨な反らし方をした。
 小さな頃の涼くんならともかく、この涼くんが泣くなんてちょっと信じられない。

「そうそう、涼君。桜子は退院したがもう暫く自宅で療養する予定なんだ。良ければ勉強をみてやってくれないか?」

「お父さん! 急に何を言い出すのよ! 涼くんに迷惑かけないで!」

「事件のせいでサッカー部は休みなんだろう? 桜子も授業についていけなくなると困るじゃないか」

「……それならお父さんが教えてくれればいいじゃない? 勉強得意なんでしょ?」

「あー、お父さんもそうしてやりたいのは山々なんだが、仕事をしないといけないんだ」

 お父さんは家庭を大事にする人。強盗未遂とわたしの体調不良が重なる緊急事態に仕事を優先するはずがないのに。

「昇進の話を断っちゃったのが原因?」

 一介の社員が四鬼会長自ら持ちかけた話を辞退したとなれば良い印象を抱かないだろう。お父さんの会社での立場を悪する可能性は否定できない。